女子の敵
ループスがハルトたちのところへ帰って来たのはすっかり日が沈んで夜になってからであった。
「ただいま」
「おかえり。遅かったな……ん?」
ハルトはループスが持ち帰ってきたものを見て首を傾げた。彼女が肩に担いでいるそれはどう見ても人間の男であった。
「誰だそれ」
「エリアルの女子生徒を物陰に連れ込んでいた輩だ。話を聞こうと思ってな」
ループスが連れてきたそれはついさっき彼女が気絶させた強盗の内の一人であった。事情を聴いたハルトとアリアは一瞬で怪訝な表情を浮かべる。三人は意思が一致し、男から情報をあぶり出すことにした。
気絶していた男が目を覚ましたのはループスに担ぎ込まれてから十数分後のことであった。彼の目の前には三人の少女の姿があった。
「なんだアンタら……?」
「俺たちはしがない旅人だ。路地裏で気絶してたお前をここに連れて来たってわけよ」
目を覚ましたばかりで状況が呑み込めない男にハルトがわざとらしくすっとぼけた風に答えた。男は直前の状況を思い出し、自分がまずい状況に置かれていることをそれとなく察した。
「お前にいろいろと聞きたいことがある」
ループスが首の骨を鳴らしながら男に尋ねた。すると示し合わせたようにアリアがビシャスを呼び出して男を拘束し、ハルトが男の側頭部に銃口を突き付ける。
「な、なんなんだよアンタら!?」
「聞きたいこと喋ってくれたら帰してやるよ。あ、ここでいくら大声を出しても俺たち以外には聞こえないから無駄だぞ」
「あと、下手に抵抗しないでくださいね。その子、人の骨ぐらいなら簡単に折っちゃいますから……」
いきなり脅迫されて動揺する男にハルトとアリアはさらに脅しをかける。ハルトはこれまでにも何度か脅迫まがいのことをしたことがあった。だがアリアはこれが初めてとは思えないほどの威圧感を放っていた。
「あの路地でエリアルの女子生徒を襲っていたな。何をするつもりだった」
「な、なんのことか」
「ビシャス。少し絞めてあげてください」
「あがががががががッ!!」
ループスの質問に対して男がシラを切ろうとするアリアがすかさずビシャスを使役して男の肩を締め上げる。人間をはるかに超えた剛力に肩を外されかねないほどに締め上げられて男は悶絶の悲鳴を上げる。しかしその悲鳴はこの場にいる人物以外の誰にも届くことはない。
「次は肩を外しちゃいます。できるだけあなたに痛い思いはさせたくないので、できれば正直に話してくれませんか?」
アリアはまるで悪人のような口ぶりで揺さぶりをかけた。そのどこかオドオドした仕草からは想像もつかない冷徹な振る舞いにハルトとループスも思わず戦慄させられる。
「う、売り飛ばすつもりだったんだよ!親相手にガケを人質にすれば身代金を取れるし、エリアルの制服は他所の愛好家に高く売れるから!」
「ほう……」
「うわぁ……」
男の犯行動機を知ったハルトたちはドン引きせずにはいられなかった。男たちはエリアルの女子生徒を狙って誘拐と強奪をしていたのである。
その発言はハルトたち一行を義憤に駆らせるには十分たるものであった。
「仲間がいたよな。あの二人だけか?」
「そうだ。俺たちは三人でエリアルの女子生徒を狙っていた」
「本当に二人だけか?」
ループスは男の胸ぐらをつかみ、眉間に無数の皺を寄せた形相で睨みつけながら念を押すように尋ねる。ついさっきアリアに痛めつけられたこともあって下手にシラを切ることに対して恐怖心を植え付けられていたこともあり、男は必死になって首を縦に振る。その様子から嘘をついていないことがわかったハルトたちは尋問を続行する。
「お前たちの拠点はどこだ」
「そんなこと知ってどうする……いだだだだだ!!」
「潰すに決まってるだろ。お前たちみたいなのは俺たち女子の敵だからな」
質問に答えまいとする男の腕をすかさずビシャスが締め上げる。エリアルの女子生徒を狙うということはゆくゆくは自分たちを標的にする可能性があるということであり、ハルトとアリアにとってはそれを放置しておくわけにはいかなかった。
「お前たちの拠点はどこだ。言え」
「言ってくれないと肩が外れるだけじゃ済まないかもよ?」
ハルトは男の側頭部に銃口を押し当て、耳元でささやきながら引き金に指をかけた。今込めてある弾は空砲であるため、発砲しても命は取らないが鼓膜が破れるのは不可避であった。
得体のしれないものを押し付けられた男は恐怖のあまりに完全に気が触れてしまった。
「い、言います!言いますから命だけはお助けをぉ!」
男はなりふり構っていられないと情けない声を上げながらハルトたちに命乞いをした。これ以上得られそうなものは何もないと判断したハルトたちは男たちが拠点にしている場所の情報を聞き出すと自室から突き出すようにして男を解放した。
自由の身となった男は腰を抜かして這い這いになりながら逃げだしていくのであった。
「アリア、お前どこであんな真似覚えたんだ?」
「私が奴隷だった時に主人から受けた仕打ちの一つを再現してみたんですが……まさか役に立つとは思いませんでした」
尋問を終えたハルトとループスが脅迫時の振る舞いについてアリアに尋ねるとアリアはそう答えた。彼女の振る舞いは奴隷時代に自分が受けたものを再現したものだったのである。
「なんというかこう……大変だったんだな」
ハルトとループスはアリアの奴隷時代の苦難を労った。そして当面の目標を『町に潜む強盗団の殲滅』に定めるのであった。




