憧れのエリアル魔法学院
カーラと別れて単独行動に出たアリアは好奇心の赴くままにエリアル魔法学院の中を見学していた。教室の数々、校舎の外で思い思いに休み時間を過ごす生徒たち、昼休みの学生が利用する食堂、そのどれもがハルトとループスがかつて同じように利用してきた場所であった。
「ここがかつてハルトさんとループスさんが学んだ場所……」
アリアは目を輝かせながら空想を膨らませた。そんな彼女の姿をエリアルの生徒たちはまるで珍しいものを見るような目で見ている。というのも、エリアルに通う生徒たちはその大半が名家の血を引く上流階級出身であり、彼らの目からすればアリアの装いは庶民そのものである。
アリアは瞬く間に生徒たちの興味の対象となった。
「あの……もしかして入学希望の子ですか?」
「ひえっ……!?」
アリアに興味を示したエリアルの女子生徒の一人が声をかけた。まさか生徒と会話ができる機会を得られるとは思っていなかったアリアは驚いて思わず後ずさる。女子生徒は挙動不審なアリアの仕草に首を傾げる。
「あっ、驚かせちゃった?」
「ごめんなさい。まさか話しかけられるなんて思ってなくて……」
一人静かに見学をするつもりだったアリアには現役生から話しかけられるのは完全に想定外であった。
「一人で来るなんて珍しいね」
「本当はもう一人一緒に来てるんですけど、今は別々に見学してるんです。ところで一人で見学に来る人って珍しいんですか?」
「ここって上流階級の人間が多いからさ。一人だと何かと危険だから何人かでまとまってることが多いんだよね」
女子生徒はエリアルの内情を交えながらアリアに事情を説明した。上流階級の子が多く在籍するこの学院は身代金目当ての誘拐を狙う輩も少なからず存在しており、自衛も兼ねて二人以上で行動するのが暗黙のルールである。アリアは女子生徒を介して初めてこの学校の内情を垣間見た。
「よかったら案内してあげよっか?」
「いいんですか!?でもその、授業とかは……」
「気にしないで。私は今日受ける授業はもうないから」
女子生徒はニコニコしながら校内の案内役を買って出た。現役生の話を聞きながら学校を知ることができる絶好の機会であった。
「なら、お言葉に甘えて……」
アリアは女子生徒の善意に甘えて案内を頼んだ。一人から二人になり、再び校内を歩く。一度見たところでも女子生徒の紹介があるとまた違って見えた。
道中で二人は様々な会話を交わす。
「貴方はどこの出身なの?私はこの街生まれのこの街育ち」
「私はクオーツっていう村の出身です」
「クオーツかぁ……聞いたことないなぁ」
女子生徒はクオーツの地名を聞いたことがなかった。彼女はこれまでエリアルから出たことがなく、まともに地図を読んだこともないためエリアルの隣町ぐらいしか知らない。典型的な箱入りの魔法使いであった。
「ところで貴方、その恰好暑くないの?」
「えっ。これは、えっと……」
アリアは女子生徒から唐突に格好について尋ねられて言葉を詰まらせてしまった。彼女は女子生徒が着用してる制服と比べると季節不相応ともいえる上着を着ている。しかしアリアは『背中に宿している精霊をいつでも呼び出せるように背中を開け放した服を着用しており、上着はその露出を隠すため』とは言い出せなかった。
「私は気にしないから別にいいけどさ」
『隠したいものがある』ということをそれとなく察した女子生徒は深堀りすることはしなかった。アリアは女子生徒の気遣いに胸をなでおろした。
二人は校内をくまなく回り、気づけば空が茜色に染まりつつあった。
「私そろそろ帰るね。入学試験はあと二ヶ月後、合格できるといいね」
「はい。今日はありがとうございました!」
夕刻、女子生徒はアリアと別れることにした。彼女はエリアルの出身であるため、学生寮ではなく通いの生徒であった。
アリアはそんな女子生徒に激励を受けてお礼の言葉と共に頭を下げた。去り行く女子生徒の後姿を眺めながらアリアはどこか違和感を覚えた。ついさっき『基本的に一人では行動しない』というのを聞いたにも関わらず、女子生徒の周りに誰かが付いているような気配が感じられないのである。
「あ、あの!」
アリアは精一杯の声で女子生徒を呼び止めた。その声は女子生徒の耳に届き、足を止めて振り向かせることができた。
「どうしたの?」
「よかったら、送っていきます……家まで」
アリアは学校を案内してくれた見返りに女子生徒の護衛を申し出たのであった。




