カーラの青空教室
ブルームバレーを出発し、エリアルに向かう道中のことであった。カーラは唐突にハルトとループスに頼みごとをしてきたのである。
「ハルト、ループス。私も教員としてエリアルの教室で壇上に立つわけだが、一度授業を受けてもらいたい」
『自分の考える授業が生徒目線でどのように見えるのかを知りたいため、生徒役として付き合ってほしい』というのがカーラの頼みであった。学校で授業を受けた経験のないアリアでは相手として心もとなく、かつてはエリアル魔法学院に在籍しており、授業を受けた経験のあるハルトとループスが生徒役として適任だったのである。
授業中の居眠りの常習犯であったハルトはともかく、ループスはそれに付き合うことにした。
「授業はどれを受け持つつもりなんだ?」
「詠唱学かな。魔法の基礎の基礎、自分が最初に打ち込んだ分野だからね」
カーラは詠唱学の教師になるつもりであった。詠唱学は魔法使いにとって最も基本的な学問である。基本的であるがゆえに専門的に打ち込むものはあまりおらず、そこがカーラにとっては狙い目であった。
「授業は一コマ六十分だ。やれるか」
「やってみよう。内容の組み立てはある程度やっている」
カーラは教壇に立つその日に備えて授業の構成を組み立てていた。今回はハルトたちを生徒役に見立ててそれを披露するのである。
「アリアも一緒に受けてみるといい。授業ってのを知るいい機会だ」
「は、はい」
ハルトたちはカーラの模擬授業にアリアを参加させた。これから魔法学校に通うのを目指す以上、授業がどんなものなのかを形式的に知るためのいい機会であった。
「よし、始めてくれ」
ハルトが合図と同時に懐中時計で時間を計り始めると同時にハルト、ループス、アリアの三人を対象としたカーラの青空教室が始まった。
カーラは自分が想定していた内容通りに授業を進める。
はじめはカーラの授業を真面目に聞いていたハルトとループスだったが開始から二十分を過ぎたところで退屈さを感じ始めた。一方でアリアはずっと真剣に聞き続けている。授業を受けた経験のあるハルトとループス、受けたことのないアリアの差が明確に出てきたのである。
カーラも二人の様子からあまり良い印象を持たれていないことに勘付いており、ハルトが居眠りを始めたところでその勘は確信へと変わった。
「起きろ。もう終わったぞ」
ハルトはループスに起こされてカーラの授業が終わったことに気が付いた。手元の時計はすでに針が一周しており、確かに予定していた時間は過ぎていた。
「どうもよくはないようだったが……率直に感想を伝えてほしい」
「んあ……ただひたすら退屈だったな」
カーラから感想を求められたハルトは直球な感想を伝えた。元々学生時代から授業を退屈に感じて居眠りを繰り返していたハルトだったがカーラのそれは特に退屈であった。
「どこがよくなかったかな」
「ただ喋るだけで俺たち生徒が授業に参加している実感が全くない。要所要所で生徒からの反応を見た方がいい」
カーラが意見を求めるとループスが具体的な問題点を指摘した。彼女はハルトと違い居眠りなどをせずに最後まで授業を聞いていたが退屈さを覚えたのはハルトと同じである。その原因はカーラが一方的にしゃべり倒しているせいで生徒側に参加権が与えられていないことであった。
「生徒に参加させる……か」
「そう、どこかで生徒に質問をしてちゃんと学習できているかを確認してみるとかしてみるといい」
ループスはカーラにアドバイスも施した。退屈なだけの授業は生徒たちにとっては苦痛なだけである。教師側から生徒たちに授業に参加する実感を与えることで退屈さをなくすと同時に多少の緊張感を与えることができるはずであった。
「エリアルの教師たちの授業風景を見学してどんなふうに授業を組み立てればいいのかを研究してみてもいいんじゃないか。研究はお前の本懐だろう」
ループスは他の教師たちの授業を見学することを提案した。生徒としての意見を出すことはできるが教師の立場を経験したことはないため、そこは本職から学ぶほかなかった。
「あー、それと一つ気休めなんだけどな。もう少しそっちも気を抜いていいんだぞ。エリアルといえどほとんどは俺たち以下の凡才なんだからさ」
ハルトは欠伸をしながらカーラになんの参考にもならないようなアドバイスを送った。ハルトは歴代のエリアルの生徒の中でも頭一つ抜けた天才とも評されていた。そんな自分を唸らせるほど授業の完成度を上げる必要などないということを伝えたかったのである。
「そもそもお前を面白がらせる授業を作れっていう方が無理だろ」
「まあなー」
ループスの突っ込みにハルトがすっとぼけたように答える。アリアとカーラはそんな二人の様子を唖然としながら眺めるのであった。




