久々に二人きりで
水路が開通した日の夜。ハルトたちは村の人々から感謝の意を込めて祝宴でもてなされた。ハルトに至っては本人の要望通り、大量の油揚げのプレゼントつきである。
宴が終わり、誰もいなくなった会場に残ったハルトとループスは二人きりの時を過ごしていた。さっきまで振舞われていたご馳走や酒の残り香が余韻のように漂い、二人にセンチメンタルな気分を起こさせる。
「こうやって二人きりになったのもいつ以来だろうな」
「そうだなぁ。いつだっただろうか」
ループスはハルトの背後から彼女を抱きかかえると密着姿勢になりながら語りかけた。二人きりで話をするのは本人たちも覚えていないぐらいに久しかった。
「ハルト。もうこの村に用事はないんだろう?次はどこに行くんだ?」
「次は……ブルームバレーだな」
ループスが尋ねるとハルトは次の行き先をブルームバレーに定めた。そこもかつてハルトが一人で旅をしていたときに訪れた場所である。ハルトはエリアルに戻るまでの旅路を自分がこれまでに歩んできた場所を仲間たちに見せながら過去を思い出すためのものにしようとしていたのである。
「ブルームバレーか……いいところに行くんだな」
「昔立ち寄ったことがあってな。今どうなってるのか見たくなった」
ループスはブルームバレーに立ち寄ることに対しておおむね好意的な反応を示した。今いる村からブルームバレーまではエリアルの向かう道の途中である。寄り道にはなるが決して遠回りではなかった。
「なあハルト、この前の占いの内容覚えてるか?」
「あー、俺とお前どっちの?」
「お前のだ。一年後のお前の居場所ってどこなんだろうなーって」
ループスはハルトに先日の占いのことについて尋ねた。エミリーの両親の占いによると、一年後のハルトは『昔約束をしたことのある愛情を持った人のところ』にいるという結果が出た。しかしその人物はループスのことではない。ループスはハルトが近い将来身を寄せることになる人物のことが気になっていたのである。
「あれについて俺もあの後考えたんだけどな。昔どこかで約束をした人がいたような気がするんだけどそれが誰なのか思い出せなくて……」
ハルトはループスに抱きかかえられたまま答えた。彼女はこれまでに積み重ねてきた数多くの濃密な経験の数々によって記憶が一部錯綜しており、どこかで誰かと約束をした記憶がいくつも思い出せる状態になっているため明確に思い出すことができなくなっていた。つまりのところ思い当たる場所がいくつもあったのである。
「そうか……」
「まあ心配するなって。占いが正しければお前はずっと俺の傍にいられるんだからさ」
自分がどこかに行ってしまうのではないかと不安を感じるループスに対してハルトはフォローの言葉を入れた。ループスは彼女自身がハルトへの忠誠心を失わない限りずっと傍にいるはずであるため、心配せずとも消えてしまう心配はなかった。
「やっぱり俺がいなくなったら寂しいか?」
「当り前だろう。俺にとってはお前は家族みたいなものだから……家族がいなくなるのは寂しい」
ハルトがふと尋ねるとループスは素直な感情を吐露した。彼女は生まれた直後から片親であり、その親である父とも絶縁したため肉親といえる存在がいない。今はアイム家の義理の家族として迎えられているものの、いつでも顔を合わせられるのは他でもないハルトただ一人である。
それがループスにとってハルトがパートナー以上の存在となっている最大の理由であった。
「心配するなって。俺はそう簡単にいなくなったりしないからさ」
ループスが不安から自身を抱きしめる腕に力を入れるのを感じ取ったハルトはその言葉で宥めながらループスに委ねるように身体を倒してもたれかかったのであった。




