魔法の力で水路を作る
村が抱えた問題を知った翌日、ハルトたち一行は有識者の男とその仲間たちと共に川の中流域まで訪れていた。男の指導の元、新たな水路を作るのである。
「ここからしばらくまっすぐに水路を引く。頼めるか」
「よっしゃ任せろ」
男から具体的な指示を受けたハルトは大型銃に弾を込め、ゴーグルを装着して発射体制に入った。ループスとカーラが川沿いに障壁を展開し、新しい水路に水が流れ込むのを抑える。アリアは出番が来るのを静かに待っていた。
「行くぞ」
ハルトは銃の引き金を引いた。弾は地面に着弾すると半径数メートル規模の幅で何メートルにもわたって直線状に地面を抉る。抉られた大地には魔力の余韻で紫電が走っていた。
「どうだ?」
「まだまだ距離が足りない。もっと引き延ばせるか」
「わかった」
ハルトの放った一撃を見た男は作業の継続を指示した。ハルトはボルトを起こして空になった薬莢を排出し、次の弾を込めると射角を併せて次の弾を発射した。弾は十数メートルを一瞬でえぐり取り、半径数メートルの通路を作り出す。
ハルトは自らが抉った地面を目視で確認するがこの様子だとまだまだ先まで時間がかかることを悟った。このペースで行くとただ掘り進むだけでも十数日は要するのは確実である。どうにかしてさらに作業を短縮できないものかと弾を撃ち続けながら考えた。
その時、ハルトに一筋の光明が見えた。数十メートルを一気に掘削できるだけの出力を出せる魔法使いがこの場にもう一人いるのを思い出したのである。
ハルトはその魔法使いにすぐに声をかけた。
「ループス、魔法剣の力で一気に開拓できないか?」
ハルトは大火力を有するもう一人の魔法使い=ループスに声をかけた。彼女の持つ魔法剣は魔力の込め方次第でその刃を伸ばすことができ、白熱化したその一刀は大地をも容易く溶断できるほどの威力がある。それを応用すれば自分よりも効率的に掘削が可能なはずであった。
ループスはハルトが自分に声をかけた理由を理解し、魔法剣を抜くと魔力を一気に込めた。彼女の魔力に呼応して剣は刀身を白熱化させ、さらに光の刃を伸ばしていった。伸びた光の刃はいともたやすく地面を溶断し、断面を発光させていく。
ハルトの目論見通り、ループスの魔法剣はハルトの銃撃よりもはるかに効率的に地面を掘り進めることができたのである。
「なかなか上出来だろう」
「素晴らしい。これなら数日もあれば水路を作れる」
ハルトとループスによる大規模な掘削に男は大歓喜していた。普通の人間の力では何十年かかるであろう水路の開拓工事が数日で完成するだろうというペースで進んでいるのである。これなら確実に水害に備えることが可能であった。
「あとはこれに沿って地面を崩していけば水路は問題ないだろう」
「それなら私に任せてください」
男が整地の必要性を説くとアリアが整地役に請け負った。彼女自身は外見相応の非力な少女である。しかし彼女がその身体に宿した精霊ビシャスは並の人間など比較にならないほどの力があった。それを利用すれば整地も難なくこなせるはずであった。
「皆さん。どのようにしていけばいいか、力を貸してください」
アリアは職人たちの協力を仰いだ。すると職人たちは次々と水路に降り立ち、なにかを図り始めたかと思えばアリアに指示を出し始めた。
「水路の幅と深さを均等にしていきたい。これぐらいの幅に合わせて、深さはこれぐらいで頼む。
職人たちは水路の幅と深さを指定し、それに合わせて均すことを求めた。幅は直径四メートルほど、深さは一メートルほどであった。
アリアは要領を得ると整地の実行のために上着を脱いで背中を晒すと精霊を呼び出した。彼女の背中から真っ黒な精霊が飛び出し、アリアの前に姿を現して彼女からの命令を待った。
「ビシャス、この道を均して」
アリアはビシャスに整地を命令すると、ビシャスはすぐにそれを実行に移した。剛腕で土を崩し、埋め立て、幅と深さが均等になるように整えていく。
職人たちはビシャスのパワーとスピードに驚愕し、その様子をただただ眺めていた。
だがビシャスに行動させるのはただ得をする行動ではない。ビシャスはアリアの健康状態を担う重要な存在であるため、それが不在になるということはアリアが生来の虚弱体質を晒すということであった。
それを知っているループスは万一の事態に備えてアリアの傍についた。
ビシャスと職人たちが整地に勤しむこと数十分。意識が朦朧とし始めたアリアはビシャスの使用をやめて呼び戻すと再び自身の背中へと納めた。アリアは呼吸を乱していたが徐々に落ち着き、普段のような状態へと戻っていった。
「今日はここまでが限度だな」
「みたいですね……もう少しやれると思ったんですけど……」
アリアは残念そうにそう言った。掘削はハルトとループスが担当できるが整地ができるのはアリアと職人たちだけである。しかし整地の主力である自分が活動できる時間に限度があるため、今日のところはこれ以上進めるのは難しそうであった。
「素晴らしい進捗だ。今日はこのまま日が沈むまで掘削だけでも進めようではないか」
主導者の男は掘削だけ進めることを提案した。整地は後からでもできる作業であるため、並行するよりも掘削を先に進めてしまった方が効率がいいと考えたのである。
そうして、ハルトとループスは陽が沈むまで男の指示の元でひたすら水路を掘り続けたのであった。




