出会いの話
いきなり訪ねてきてからというもの、エミリーはハルトとループスにご執心であった。特にハルトの尻尾の触り心地を気に入っており、ハルトの背後に回ってずっと尻尾の中に顔を埋めている状態であった。
「そんなに楽しいかそれ」
「決まってるじゃない。普通の動物じゃこんなに好きに触られてくれないもの」
エミリーの動物好きは単なる好きを通り越した別の何かと化していた。ループスたちはそんな彼女とハルトがどのようにして出会ったのかを知りたくて仕方がなかった。
「あの……エミリーさんとハルトさんはどうやって知り合ったんですか?」
アリアが恐る恐る尋ねるとエミリーはハルトの尻尾から顔を離してアリアの方を見た。オフ状態の彼女の冷たい眼差しを向けられたアリアは思わず少し委縮させられる。
「知りたい?」
「はい。気になります……」
エミリーから念を押されたアリアは委縮しつつもはっきりと答えた。そこまで気になるのならとエミリーはハルトとの馴れ初めを語りだした。
「私とハルトが出会ったのはちょっと昔のこと……」
「そうだなぁ。どれぐらい前だったっけ」
エミリーの語りにハルトが合の手を入れる。ハルトはまるで意識していなかったが初めて会ったときからエミリーの外見の変化がはっきりとわかるほどの月日が流れているため、それなりに昔のことであった。
「ハルトが来る前に私の両親がこの村が近い将来水没するっていう予言を出したの。それを回避するために私は自分にできる形で力を尽くしていたわ」
「予言って、エミリーの両親は予言者なのか?」
「いいえ。占い師よ」
ループスからの問いにエミリーが答えた通り、彼女の両親は村の占い師である。それも魔法使いたちの視点からすれば非常に珍しい、魔法を使用しない占い師である。
「村の水没を防ぐために堰を築く必要があったのだけどそれを為すためには片方の村だけでは人手が足らなかったわ。でも少し前までこの村と私の住んでる村は信仰の違いで対立してたからそう簡単にはいかなくて……」
「それでどうしたんですか?」
「私が村の看板娘になって協力を呼び掛けたわ。早い話が色仕掛けをしたの」
ループスたちはエミリーの口からしれっと放たれた爆弾発言に思わず耳を疑った。まさか目の前にいる少女が大人の男たちに向かって色仕掛けをしていたとは信じがたかったのである。
当のエミリー自身も事情を知っているハルト以外からの反応を見て何か誤解をされていることを察する。
「貴方たち勘違いしてない?私はいかがわしいことなんて何もしてないわ」
エミリーは誤解を解くようにループスたちに釈明した。彼女の活動は健全と言える範疇である。それよりも彼女に対抗して活動をしていたときのハルトの活動内容の方がよほど際どいことにハルト自身は気づいてしまったがエミリーはそれを知らないため、口に出すようなことはなかった。
「で、エミリーの目的を知らない俺がこの村の連中に担ぎ上げられて村人を呼び戻すために看板娘やらされてたってわけよ」
ハルトは自身の外見からエミリーに対抗できる看板娘としてこの村の人々に担ぎ上げられて半ば無理やりに活動をさせられていた。活動は嫌々であったものの、食事と寝床付きという当時まだ収入が安定していなかった彼女にとっては非常に魅力的な条件と引き換えであったためやむを得なかった。
「私からすれば急に邪魔者が来たって感じね。で、どんな奴だろうと顔を合わせてみたらこんなふわふわのモフモフな子がいたってこと」
ここまでの一連の出来事がハルトとエミリーの馴れ初めであった。村の看板娘同士、顔を合わせて互いの内情を知ったことで二人は打ち解けていったのである。
「三人はハルトの友人なんでしょう。みんなはそれぞれどうやってハルトと知り合ったのか教えて」
エミリーは自分の話をしたところでループスたちにハルトとの出会いのことを尋ねた。ハルトの友人というのだからさぞ面白い話が聞けるだろうと内心非常にワクワクしていた。
彼女の要望に対して最初に口を開いたのはループスであった。
「俺はソルシエールでコイツと出会った、というよりかは再会したといった方が正しいか」
「再会?二人はどこかで知り合ってたの?」
「そうだな。話せば少々複雑なことになるが……」
ループスの語り口にエミリーはすぐに食いついてきた。ループスとハルトの出会いはかなり複雑な事情が入り組んでおり、両者の因縁はハルトが女になる前まで遡るため、ループスはどこまで話しても問題ないかで悩んでしまった。
一報のハルトはループスは自分が元男であることをエミリーにバラしてしまうのではないかと気が気でならなかった。
かくして、エミリーは初対面のループスたちとハルトに関する話に花を咲かせるのであった。




