ループスの忠誠心
「あの人、どうなってしまうんでしょう……」
その夜、アリアは一人今朝の老爺のことを憂いていた。彼はアリアとループスの二人の手によってハルトの視界から引きはがされたのち、ループスの手によって凄絶な拷問を受けたのである。『命は取らない』という制約をループスが課しているせいで死なせてくれという懇願も聞き入れられないその様はただ殺すよりも残虐であり、それを淡々と実行するループスの姿は人間の心など微塵も感じられなかった。
「俺たちが気にすることじゃない。忘れろ」
「お前何したんだよ……」
アリアに淡々と言い聞かせるループスにハルトが思わず突っ込みを入れた。自身の希望で視界から遠ざけさせたとはいえ、自分の目の届かないところでループスが何をしていたのかはハルトも気になるところではあった。
だが聞いたところでろくでもない答えが返ってくるのは目に見えていたため、ハルトはそれ以上根掘り葉掘りするようなことはしなかった。
「ループス。君はずいぶんとハルトに忠実なようだが」
「ハルトは俺にとって大事な存在、だから尽くすのは当然のこと」
カーラに対してループスは自身がハルトに対して抱いている忠誠心を語る。彼女は基本的にハルトに対しては多少行き過ぎたぐらいに忠実である。ハルトの命令であれば実行し、彼女を守るためなら他人を痛めつけることに何の躊躇もしない。それはもはや心酔といっても過言ではないほどのものであった。
「なんという忠犬……」
「あ?」
何気なく発せられたカーラの一言にループスは表情を凍り付かせた。それを見たハルトはまずいと言わんばかりにため息をつく。冗談であろうと罵倒であろうと犬呼ばわりされることはループスにとってはたとえハルトが相手だろうと許容できない最大の地雷であることをカーラは知らなかったのである。
ループスは眉間に皺を寄せた形相でカーラの襟首を掴んだ。
「今度俺のことを犬呼ばわりしてみろ。例え魔法使いの始祖だろうと容赦はせんぞ」
「わ、悪い……」
意図せずループスの地雷を踏みぬいたカーラはループスに詫びを入れた。アリアはそんな様子をまじまじと見つめていた。
こうして一行は、とりわけアリアとカーラはループスが見た目以上の危険因子を抱えていることを認知するのであった。




