幕間:初恋泥棒ハルト
今回は第十三章の物語の本筋とは関係ない幕間の話になります。
それはカレンの両親が帰ってくるという知らせが届く数日前のことであった。ここ最近のアーサーは何かにつけてそわそわしており、どうにも落ち着きに欠けていた。
そんなアーサーの様子を見かねたカレンは他の家族たちがその場にいないタイミングで声をかけることにした。
「アーサー。最近なんか落ち着きがないけどなんかあったん?」
「あぁ、カレン姉ちゃん。あの……笑わずに聞いてくれる?」
カレンが話を聞こうとするとアーサーは意味深な前置きをしてきた。それによってカレンはむしろ興味をそそられる。
「内容次第だけどまあ笑わんよ。てか何々、そんなこと言われたら逆に気になるんだけど」
「実はこの前ハルト姉ちゃんと二人で出かけたんだけどさ」
カレンは切り出しの時点で衝撃を受けた。彼女はアーサーがハルトとデートをしていたことを知らなかったのである。それと同時にカレンはアーサーに何が起こったのかをなんとなく予想できてしまった。
「その……ハルト姉ちゃんのことをそれ以来『女の子』として見るようになっちゃって。一緒にいると落ち着かないっていうか……」
アーサーが続けた言葉はカレンの予想通りであった。アーサーは性に目覚めたのである。というのも、彼がハルトが二人で訪れたドーナツ屋の店員に冷やかされたのが発端であった。
「ははーん。なるほどねぇ」
「俺どうしちゃったのかな?」
初めての感情に戸惑うアーサーがハルト相手に『初恋』をしたことはカレンにはあまりにもはっきりとわかってしまった。あまりにも甘酸っぱい体験談にカレンはニヤニヤが止まらない。
「わ、笑うなよ」
「いやー、わかるよ。ハルトちゃん可愛いもんね」
カレンはアーサーにフォローを入れた。からかうどころか弟が健全に成長していてむしろ喜ばしく思えるぐらいであった。
「大丈夫、男ならアーサーぐらいの歳になったら遅かれ早かれそういうことは経験するもんだからね」
ハルトは無自覚にアーサーの初恋の相手になっていた。しかし彼女自身にそれが伝わるはずもなく、旅人であるが故に結ばれることもない。本気で恋をしたとしてもアーサーが失恋することは確定事項であった。
カレンは弟に配慮し、それが恋だと明言はしないことにした。
「ところでなんでハルトちゃんなの?ループスさんにアリアちゃんも一緒にいるのに」
「なんかループスさんはカレン姉ちゃん見てるみたいだし、アリア姉ちゃんはなんかよそよそしくて一緒にいるような気がしなくて……」
アーサーは無自覚に初恋をしたものの、その相手がハルトになったのは彼なりの同機に基づいていた。外見年齢が一番近く、それでいて一番親しく接してくれる相手がハルトだからというものである。
「大人の階段上ったねぇ。アーサー」
ハルトたちとの出会いを通じてアーサーは一つ、大人に近づいたのであった。
今回で第十三章は完結になります。
次回からは第十四章を開始予定です。




