お別れ、再出発
「今までお世話になりました」
「泊めてくれてありがとう」
翌日の朝、ハルトたち一行はカレン一家に別れを告げて次の目的地プル=ソルシエールに旅立とうとしていた。
カレン一家は玄関先で一行を見送ろうとしていた。
「ループスお姉ちゃん。最後にもう一回だけぎゅーってして」
ノエルはループスとの別れを惜しんでハグをせがんだ。一行の中でノエルが一番懐いていたのはループスである。
「よしよし。これでいいか?」
ループスは片膝をついてノエルと視線の高さを合せると両腕を広げてノエルが近寄って来るのを待った。ノエルはそれを待っていたと言わんばかりにループスに駆け寄って抱き着き、抱擁を交わす。
何秒か抱擁を交わし続けたループスは頃合いを見計らうとノエルの頭を軽く撫で、ついていた膝を地面から離して再び立ち上がった。
「アリアちゃん。旅先でも二人のことちゃんと見てあげたってね」
「は、はい……」
別れ際、カレンはアリアに耳打ちした。言われずともそうするつもりであった。
「またこの街に来ることがあったらうちにおいでよ。今度は家族みんなで歓迎するからさ」
「ありがとう。今はその気持ちだけもらっておこう」
「じゃあな!」
ハルトたちは今度こそカレン一家とお別れし、次の旅路へと進みだした。
「お二人はソルシエールで何をしていたんですか?」
道中、アリアはハルトとループスに馴れ初めのことを尋ねた。アリアはつい先日に二人がそこで出会ったことを知ったばかりである。
「あー、知りたい?」
ハルトはもったいぶるようにアリアに聞き返した。二人の馴れ初めはハルトにとってはどうということはなかったがループスにとっては苦い記憶であったため、話すのに遠慮していたのである。
「別に俺は構わん」
「そうか。じゃあ話すわ」
ループスから許可を得たハルトはアリアにループスとの馴れ初めのことを語りだした。
「俺たちさ、実は男だったころから顔見知りだったんだけど当時はソルシエールにはいなかったんだよね」
「えっ?どういうことですか?」
「俺たちは魔法学校で知り合ったんだ。俺が成績一番でループスは二番」
ハルトはこれまでアリアに明かしていなかった過去を語る。今の姿で再会したのはソルシエールでのことだが、それ以前からすでに面識そのものはあった。ただしループスにとって苦い記憶となるのはその時代のことである。
「俺たちは生まれた身分が違ってさ。俺は小さな町の庶民、ループスは軍事国家の軍人の家系だから所謂上流階級って奴だ」
「昔の俺は庶民に負けるのがとにかく嫌で仕方なかったんだ。そんな中で真正面から勝負を挑んでも勝てなかったのが今隣に居るコイツだったわけだ」
庶民よりも上に立っていなければならないという典型的な生まれながらの上流階級の思想に染まっていた当時のループスにとってハルトの存在は目の上のたん瘤であった。
「で、どうしても俺に勝てなかったループスが腹いせに俺を今の姿にしたってワケ」
ハルトはあっさりと今の姿になった経緯を打ち明けた。アリアはハルトとループスに嫌悪な関係だった時期があることが信じられなかった。
「元の姿に戻れなくなったから学校にもいられなくなってさ、俺は無断で学校退学して旅人になったんだ」
「俺はそのまま卒業するまで学校に残ったが、繰り上がりで一番になったという事実から逃れられずに辛い思いをするだけだった」
「え、え……?うん?」
元の姿を失ったハルトは比較的後腐れなく学校を去ったものの、ループスは一番になるという目的を果たしてなお肩身の狭い思いをしていた。ここまでの二人の歪な関係にアリアは理解が追い付かない。
「で、俺は旅人としてソルシエールに行ったんだが……ここから先はループスに語ってもらった方がいいだろう」
ハルトはそこから先の経緯を語るのをループスに丸投げした。というのも、ハルトはそこからソルシエールで再会するまでの間ループスとは一切かかわりがなく、語れることがなかったのである。
「卒業してから故郷に戻った俺は父上から散々な仕打ちを受けた。お抱えの魔法使いにこの姿にされて素寒貧で家を追い出されてな」
ループスは卒業後して故郷へと戻ったものの、庶民に最後まで勝てなかったという話は父の耳に届いており、その懲罰として着ている服以外のすべてを失った状態で勘当を受けたのである
「どうしてももう一度ハルトと勝負をしたいと思った俺はコイツが行きそうな場所を考えたときにソルシエールが浮かんだ」
「ソルシエールには何があるんですか?」
「ソルシエールは魔法使いの始まりの街とも言われててな、魔法使いなら誰もが一度は行ってみたいと思う場所なんだよ」
「そういえば……昔お父さんから教えてもらったことがあるような気が……します」
アリアはハルトからの補足を受けてソルシエールの地名を聞いたことがあるような記憶を朧気に蘇らせた。かつてアリアの父も彼女にその地名を語り聞かせていたのである。
「で、ループスの予想通り俺はソルシエールに来て、ループスもたまたまそこに居合わせて再開したってこと」
ハルトは二人が出会った経緯に関する語りを締めた。
「そんなことがあったんですね……てっきり最初から仲良しだったのかと」
「仲良くするつもりはなかったんだけどお互い他に身を寄せ合える相手がいなかったから仕方なくな。で、気づいたらこんなことになってた」
「そんなこと言うな。お前も最初から満更でもなかっただろう」
「うるせえ」
ループスに茶々を入れられたハルトは尻尾でループスの背中を叩いた。はじめは固い口調で冗談の一つも言えなかったループスが今では軽い煽りまで入れられるようになった。旅を通じて彼女に生じた大きな変化の一つであった。
「まあでも、せっかくなら学校卒業までは行ってみたかったなぁ……」
アリアに語る中で学校時代のことを思い出したハルトは忘れていたはずの学校卒業への未練を独り言のように零したのであった。
次回、幕間の話を一本挟んで第十三章は完結となります。




