錯覚、錯乱、悶絶
マレーネの冒険者ギルドから宿に戻ったハルトは気分を紛らわそうと一人で機械いじりを始めた。趣味に没頭すれば少しでも忘れられると考えたのである。
しかしそううまくはいかなかった。ハルトの脳裏には昨夜のアダンの姿と、彼との関係が進展した場合の自分の姿が浮かんでしまって手が進まない。ついにはそれの所為で工具が手元から滑り落ちる始末である。
「あーダメだダメだ!」
雑念に駆られたハルトは機械いじりすらもままならなかった。すでに彼女の頭の中はアダンに関することでいっぱいであった。
(そもそも俺って女の子……なんだよな?)
ハルトは急に哲学的なことを考え始めた。それは元々男であった自分の性別はどちらなのかという難題であった。
身体的特徴には男の面影など微塵もない、完全なる少女のそれである。喋り方や振る舞いには男だったころのものが深く染みついている。
ところが最近の趣味嗜好には女の子のそれが出始めていた。今の彼女は男にも女にも染まり切っていない存在だったのである。
初めに比べれば随分と変わりはしたものの、ハルトは完全に女にはなりきれない。それが今の彼女を大いに悩ませた。自分が最初から女として生まれていればこんなことに悩まされずに済んでいたのだろうかとすら考えるほどであった。
(今は誰かと付き合うつもりなんてない。告白されたらどうやって断れば……)
思考に耽っている内に少しだけ冷静さを取り戻したハルトはアダンがアプローチをかけてきたときにどう断るべきかを考え始めた。
(素直に断るべきか……いや、でもそれで傷つけたら……)
ただ断るだけで終わることのはずが、ハルトの中にあるお人好しなところが邪魔をする。
「あぁー!もうどうしたらいいんだよッ!」
考えすぎで思考がパンクしたハルトはベッドに飛び込んで頭を掻きむしった。
「ってかなんだよ!これじゃ俺がアダンのこと好きみたいじゃねえか!」
自分が抱いている得体の知れない感情のもどかしさにハルトは悶絶していた。気づけば一日中アダンのことしか考えていない。いつか昔に聞いたことのある『恋は盲目』という言葉そのものであった。
それに気が付いてしまったハルトは尻尾をパタパタとベッドに叩きつけながら悶絶した。
(落ち着け……俺はアイツのことは異性として見ることはないんだから……)
自分の意思と関係なくブンブン動く尻尾を腕の中に抱えながらハルトはベッドの中で丸くなるのであった。




