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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
8章 プリモへの里帰り
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アルバス・アイムではなく

 日が沈みかけていた頃、ハルトはセシルとレオナに改めて顔を見せた。


 「ループスちゃんはどうしたの?」

 「アイツなら俺の部屋で寝てるよ。旅の疲れが溜まってたみたいだ」


 ハルトは適当な理由をつけてループスが自分の部屋で寝ている事実を伝えた。久々に家族だけで話ができることを察したセシルとレオナはいつもよりもやや神妙な面持ちでハルトと向かい合った。


 「わざわざ一人でこうしてるってことは、あの子に聞かれるとまずいことでも話したいんだろう?」

 「よくわかってるじゃん」

 「そりゃあ十年ぐらい一緒に暮らしてきた我が子のことだからな。お見通しだよ」


 セシルはハルトの思惑を話す前から看破してみせた。ここ数年は離れていたとはいえ、何年も一緒に顔を見て過ごしてきた我が子の立ち回り方は理解していた。


 「で、どんなことを話したいの」


 レオナはハルトに話の開始を促した。そんな彼女の善意に後押しされ、ハルトは恐る恐る口を開いた。


 「あのさ……俺、今はアルバス・アイムっていう名前を使ってないんだ」

 「じゃあ、どう名乗ってるの?」

 「ハルト……ハルト・ルナールブラン」


 ハルトは現在の通り名をセシルたちに明かした。本来の名を知られぬようにこれまでずっとこの名を使ってきたことも同時に打ち明けた。

 

 「じゃあその姿になってからはずっとアルバス・アイムとは名乗らなかったの」

 「そういうこと。俺はこの姿でいる間ずっとハルト・ルナールブランで通してきた。だから……これからも俺がアルバス・アイムじゃなく、ハルト・ルナールブランとして生きていくことを許してほしい」


 ハルトは自分の名前をこれからも通して使っていくことに対する許可を求めた。それは彼女がアイム家の人間であることをやめるということに他ならなかった。


 「家族であることをやめたいってわけじゃない。俺にとって父さんは父さんだけだし、母さんは母さんだけだと思ってる。でも……俺は今の姿でこの名前を使って生きてみたいんだ」


 『今の姿で、今の名前で生きていたい』それがハルトがかねてより抱いていた願望である。決して自分の生まれや境遇に嫌気がさしていたわけではない、ただそうしていたいという子供らしいワガママであった。

 

 「そうしたいってことは、そう思うだけの理由があるってことだろう?それを話してくれないか」


 セシルに促されるままにハルトは今の名前でいたい理由を語った。元々ハルト・ルナールブランは正体がアルバス・アイムであることを隠すために使用した偽名であったこと、アルバス・アイムとしていられなくなったために学校を事実上退学したこと、この名前を使って冒険者として登録も完了させていること、そして先のループスの一件から今の名前を使い続けるには両親に許可を出してもらうべきだと考え現在に至っていることまでセシルとレオナに伝える。


 「実はちょっと前にループスが自分の家といざこざを起こしててさ。アイツは今はループス・ノワールロアって名乗ってるけど本当の名前はループス・マグナレイドっていう名門軍人の血筋なんだ」 

 詳細を伏せつつもハルトはループスが現在の彼女は自力で勝ち取ったことに感化され、自分もそうありたいと感化されたことを語った。結果として自分のワガママを押し通そうとする形になり、ハルトは一通りの弁明を終えると申し訳なさから耳を伏せて俯いた。そんな彼女を見たセシルとレオナは顔を見合わせると困ったように笑った。


 「顔を上げて」


 レオナはハルトに俯いた顔を正面に向けるように諭した。それに対してハルトはいくら寛大な両親でも今回の一件は流石に怒るだろうという覚悟をしながらゆっくり顔を上げた。


 「お母さんたちは貴方が外でどんな名前を使おうと気にしないわ」

 「じゃあ、俺はハルト・ルナールブランとして動いてもいいのか?」

 「許します。でも一つだけ条件を出させて」

 

 レオナはハルトがアルバス・アイムではなく、ハルト・ルナールブランとして名を通していくことをあっさりと許可した代わりに交換条件を持ち掛けた。レオナがセシルにアイコンタクトを送ると、セシルがハルトへその条件を提示した。


 「せめて家にいる間は、アルバスとして扱わせてほしい」


 両親から提示された条件、それはアイム家に滞在している間は実の息子アルバス・アイムとして扱うというものであった。家の中でハルト・ルナールブランでいることを許したら、愛する我が子が遠い存在になってしまうのではないかという不安からくるものであった。


 「わかった……でも、他のプリモの人たちには『アイム家の息子、アルバス・アイム』じゃなくて『たまたま息子と同じ名前をした他所の女の子』ってことにしてくれないか」


 ハルトは条件付きで両親の要求を飲んだ。それは魔法の行使による虐待を疑われないための両親に対する配慮であった。ハルトの意図をそれとなく汲み取ったセシルとレオナは静かに首を縦に振った。


 「それはそれとして、お母さんから個人的な頼みがあるんだけど」

 「個人的な頼み?」

 「そう。アルバスちゃんを模した人形を作りたいから型を取らせてほしいの」


 レオナはハルトに採寸の許可を求めた。先のハルトを模した人形を作りたいという発言は冗談ではなかったのである。さっきまでの会話との温度差にハルトは思わず目を丸くした。


 「じゃあ今から採寸するからお母さんの工房についてきてー。あ、今のアルバスは女の子なんだからお父さんは覗いちゃダメ」


 セシルの同行をきっぱりと拒否するとレオナは半強制的にハルトを自身の人形工房へと連行していった。置き去りにされたセシルは寂し気に二人の後姿を見送っていた。



 アイム家はどこまでも寛容で、どこまでも自由で、そしてどこまでも変わり者の一族なのであった。

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