幕間:頭を撫でられる
今回は第六章の本筋とは特には関係のない話になります。
ハルトたちがリリアンをマーキス家に引き合わせる前日のこと。ハルトは憩いの家にてリリアンと戯れていた。
「うーむ……やはり素晴らしい触り心地だ」
「だろー?気が済むまで触っていいぞー」
ハルトは頭をべったりとリリアンに押し付けて甘える仕草を見せた。これで少しでもリリアンの気を引いて当日への緊張を減らそうと考えての対応である。
「お前そんな耳べたっと伏せてプライドとかないのか……?」
そんなハルトの態度に対してループスは懐疑的な目を向けていた。
「ない。そんなものはとっくの前に捨てた」
ハルトはきっぱりと断言した。今の彼女にとって自身の容姿とそれを活かした愛嬌のある仕草は大きな武器へと昇華していたのである。
ループスはそんなハルトに引いてしまった。
「それにさ、頭撫でられるのって案外いいもんだぞ」
ハルトは耳をペタンと伏せてリリアンの手が頭上に置かれるのを待ちながらループスに語り掛けた。ハルトは頭を撫でられると反射的に耳が動く癖があるものの、純粋に頭を撫でられることについてはむしろ好意的に考えていた。
「そうか?」
「ループス、さては撫でられたことないからわかんないんだろ」
ハルトはニヤニヤしながらループスを煽った。事実、ループスは現在の姿になってから誰かに頭を撫でられた経験がなかった。ハルトですらループスの頭に触れたことはない。
「なっ……!?」
「ほう。狐ちゃんはなかなかのものだったが狼ちゃんの撫で心地というのも気になるなぁ」
リリアンの興味の対象がループスへと向いた。そもそも獣の耳と尻尾が生えた少女が二人も目の前にいるというだけで興味をそそられているが、そんな彼女たちの感触を確かめることができるなどまたとない機会であった。
対するループスはかなり狼狽えているようであった。
「お前も撫でられてみろって。ぜったい気分いいぞ。ましてやお前は俺より犬に近いわけだし」
「俺は犬じゃない!」
ループスは自身が犬ではないことを頑なに主張した。彼女にとっては狼であるというところだけは譲れない要素である。しかし撫でられることへの好奇心については否定できなかった。
「本当はちょっと気になってるんだろ?」
「そ、それは……変に見えないか?ほら、俺って身体大きいし……」
ハルトの誘いに対してループスは内心では興味を持っていることを打ち明けた。しかし小柄な外見のハルトと比べて身体が大きい自分がそのような甘えた仕草を見せることに抵抗を感じているようであった。
「いや、全然」
「私は君よりも年上だぞ?何もおかしいことはない」
ハルトとリリアンは一緒になってループスの好奇心を全肯定しながら撫でさせるように催促を掛けた。それを受けたループスは好奇心に負け、恐る恐る頭を低くしてリリアンへと差し出した。
「お前耳伏せるのへたくそかよ」
「うるさい。やったことないからしょうがないだろう」
ループスは伏せた耳をプルプルと震わせていた。彼女は自分の意思で耳や尻尾の動きをコントロールしたことがなく、こういった仕草は不得手だったのである。
「ほら、こうやるんだよこう」
ハルトは手本を見せるように耳を伏せた。しかしそれでループスがうまく耳を伏せられるようになるはずがなかった。二人のやり取りをリリアンは興味津々に眺めていた。
「いきなり言われても無理だって」
「気にすることはない。触らせてくれたまえ」
ある程度鑑賞したリリアンはループスの頭へと手を伸ばした。耳と耳の間に手を置き、小動物に触れるようにループスの頭を撫でまわした。
ループスは真っ赤になった顔を隠すように俯いた。彼女の顔はすでに様々な感情が入り混じって爆発してしまいそうなほど熱くなっていた。
「な?そんな悪くないだろ?」
「うぅ……」
ハルトに顔を覗かれながら尋ねられたループスは小さく頷いた。やはりまんざらでもないようである。
「リリアンさん。コイツのことめっちゃ撫でてやってくれ」
「お安い御用さ。私の気が済むまで可愛がってあげよう」
リリアンは満足がいくまでループスを撫で続けるのであった。
これにて第六章が終了になります。次回からは第七章を開始予定です。




