誰かからの手紙
ドクヤアラシを討伐したハルトとループスに対し、周囲の冒険者たちからの見る目は大きく変わった。駆け出しのころに声をかけてくれた仲間たちはもちろんのこと、二人をバカにしていた荒くれたちからの評価も見事に覆ったのである。
他の冒険者からクエストの誘いも来るようになり、冒険者として不自由することはほとんどなくなっていた。
「こうも居心地がよくなると離れるのが大変になるなぁ」
ハルトは一人ぼやいた。待遇がよくなるとクラフテアの街を離れることに惜しみを感じるようになっていた。これでは次の行き先を決めることができない。
「えっ。ハルトさんたちここを離れちゃうんですか?」
「まあな。俺たち元々は旅人だし、次の行き先が決まれば……な」
他の冒険者からの問いかけに対してハルトはのんびりと背伸びをしながら答えた。彼女たちは元々旅の間の稼ぎを得る手段として冒険者になったのである。資金を獲得できた今、次の行き先が決まればそこへ向かうのみであった。
「そうなったらちょっと寂しくなりますね」
「そう言うなよ。すぐにどこか行くわけじゃないし、冒険者やってりゃまたどこかで会うかもしれないしさ」
ハルトがそんなやり取りを交わしている一方、ループスは受付嬢となにか話をしているようであった。ループス宛に届け物があったようである。何やら手紙らしい。
届け物を受け取ったループスは怪訝な表情を浮かべながらハルトの元へと戻ってきた。
「どうしたんだ?」
「ああ、こんなものが届いた」
ループスは受け取った手紙を不機嫌そうにテーブルの上に叩きつけた。
差出人には『クリム・マグナレイド』と記されていた。
「クリム……マグナレイド?誰だ」
「俺の父上だ」
手紙の差出人はまさかのループスの父親であった。連絡も取っていないのになぜループスの居場所がわかったのかハルトには不思議でならなかった。
「俺たちの冒険者としての評判を風の噂で聞きつけたんだろう。物好きな人だ」
ループスは手紙が届いた経緯を推察した。
「で、なんて書いてあったの?」
「わからん。それを今から確かめる」
そう言うとループスは父親からの手紙の封を開けた。手紙を広げ、両端を掴んで内容に目を通す。一人で目を通したループスはハルトの手を掴むと何も言わずにどこかへと連れて行ったのであった。
「どうしたんだよ。なんか変なことでも書いてあったのか?」
「ご名答。お前も読んでみろ」
二人きりになったところでループスは自身宛の手紙をハルトへと回した。そこに書かれた内容を見たハルトは思わず顔をしかめずにはいられなかった。
「うわぁ……なんだよこれ」
「そう思うだろ?」
手紙には要約するとこう記されていた。
『帰ってこい』
元々ループスを現在の姿にした張本人は手紙の送り主ことループスの父親である。元の姿を奪って家を追い出しておきながら帰ってくるように要求するのはいささか都合のよすぎる話であった。
「で、お前はどうしたいの?」
「一度帰る。親父とはしっかり顔を合わせてから決別する」
ループスは姿も家名も捨てた今、彼女は家に拘る必要などこれっぽっちもなかった。むしろ因縁の相手である父親と完全に決別して自由を得ようとすら考えていた。
「だからハルト、手を貸してくれ」
「まぁ……それなら別に」
ループスの頼みに対してハルトはまんざらでもないように答えた。元々ハルトがループスと共に旅をしているのはループスが家族との因縁を清算するまでの付き合いという建前があった。それを為すべき時が来ようとしていたのである。
「次の行き先は……俺の故郷、ウォルフェアだ」
次の行き先が決まったハルトとループスは旅の準備とクラフテアの街を離れる準備を進めるのであった。




