荒くれたちがやられた
ハルトとループスが銃の改良のために奔走した日の夜、二人が冒険者ギルドの食堂で夕食を取りながら今後の旅の予定について語らっていた。
冒険者稼業によってある程度潤沢な稼ぎを得たおかげでクラフテアの街に滞在する必要性が薄れてきていたのである。
「そろそろ予算もできたし、次の街に行くか?」
「そうだな。そもそも、お前がこんなもの作らなければもっとお金はあったわけだが」
「そう言うなよ。これからコイツには十万マナ分の働きをしてもらうからさ」
ハルトは隣に添えた大型銃に手を置きながら釈明した。彼女が制作した大型銃の制作費は魔法石の購入以外にも有償で引き取った金属も合わせれば十万マナ以上にも上る。街の二つや三つは贅沢しながらでも渡れるぐらいの額であった。
などとやり取りをしているところ、ギルドのロビーが騒がしくなってきた。それと同時にハルトの耳には悲鳴のような叫び声が聞こえていた。
ただ事ではないと感じ取ったハルトは手にしていたフォークを食器に添えるように置くとロビーの方へと様子を伺いに出た。
「まだ食べてる途中だから、食器は回収しないでくれ」
ループスは食堂のウエイターにそう言い残すと荷物を回収してハルトの後を追った。
ループスがロビーでハルトと合流するとその中心には仰向けになり、脇腹を抑えながら呻き声をあげる顔面蒼白の男たちがいた。
二人は男たちの顔に見覚えがあった。
「アイツ、この前俺たちに嫌味言ってきた奴だよな」
「ああ。いったい何があったんだ」
男たちはかつてハルトとループスが冒険者になりたての頃に嫌味を飛ばした荒くれであった。内心では『ざまあみろ』と思いつつも手練れと思わしき冒険者の彼らが重傷を負うのはただ事ではないと感じたハルトは事情を聞こうと試みた。
「うぅ……あぁ……」
「おい、何があったんだ?」
苦しみ呻く荒くれに対してハルトは無思慮に聞き込んだ。当然だが荒くれはハルトの質問に答えるどころではなかった。
「馬鹿か。こんな状態の人間がまともにしゃべれると思うか?」
「でも本人に聞かないとわからないだろう」
ループスが慌ててハルトを抱えて回収しようとすると荒くれは絞り出すような声で何かを語ろうとしだした。ハルトはループスに自分を降ろさせると荒くれの口元に耳を近づけた。
「アイツに……アイツにやられたんだ……」
「アイツ?どいつだ」
「ドクヤ……アラシ……」
荒くれはドクヤアラシという名を出した。どうやら彼らはそれにやられてこうなったようである。ハルトはギルドの受付嬢にそれについての情報を尋ねた。
「ドクヤアラシってのはどういう奴なんだ?」
「ドクヤアラシはこの付近に生息してる危険生物の一種です。非常に攻撃性の高い動物で、近づいてくるものに猛毒の針を飛ばすんです」
ハルトにドクヤアラシに関する情報を求められた受付嬢は知り得る限りのことを答えた。聞く限りでは無差別に毒針を飛ばしてくる危険生物という認識で間違いはなさそうである。
「なるほど、そいつは確かに危険だな」
「目撃されるたびに討伐の依頼が出されるぐらいでして。今回もそうだったのですがどうやら不意に針を受けてしまったみたいで」
ドクヤアラシはただものではないようだった。荒くれの様子を見るに毒針は直撃したわけではなく、ほんのわずかに掠めただけであの有様である。
無差別に攻撃を仕掛けてくるということは自分たちが攻撃対象にされてもおかしくはない。ハルトとループスは自衛も兼ねてドクヤアラシの討伐を決意した。
「討伐依頼、俺たちに引き継がせてくれ」
「いいんですか?命の保証はできませんよ」
「それでも構わない」
ループスはともかく、ハルトにはドクヤアラシの毒針よりもはるかに射程の長い遠距離攻撃の手段があった。これならば他の冒険者たちよりも安全に対処ができる見込みもあった。
かくして、荒くれ冒険者たちが失敗したドクヤアラシの討伐依頼を引き継いだハルトとループスはドクヤアラシについての情報を集めた。
有識者の冒険者曰く、ドクヤアラシは赤色の毛を持ち、針は固く真っ黒、大きさは人間の大人を上回るほどもあるという。群れをつくらず、常に単独で行動をしているという習性も知ることができた。
「これは噂で聞いた話なんですが、ドクヤアラシは人間の食べ物の味を覚えるとそれを求めて人の住んでる場所まで来ることもあるらしいですよ」
「マジかよ……」
ハルトたちは戦慄した。人間を殺傷するほどの威力がある毒針を能動的にまき散らす動物が人里まで現れることがあるというのである。ますます対処を急がなければならなかった。
「夜は巣で寝ているから出てこないらしいですけど、もし昼間の奴がここにくるようなことがあったら」
「次の犠牲者が出るってわけか」
「そうなる前に討伐しなければ……」
ハルトとループスはドクヤアラシを討伐すべく作戦を考えるのであった。




