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第6話 なみだの報酬

「負けたのね、あたし」

「さっきとは逆の立場になったな」


 激戦の後。

 少女は医務室で処置をされたのち、自分の部屋へと戻された。おれも入っていいとのこと。というか目を覚ますまで傍にいてやってほしいと、彼女の父親に頼まれた。


「おまえさ」

「サシャ」

「ん?」

「あたしの名前。いつまでもおまえ呼ばわりされるのむかつく」

「じゃあサシャ、母親はどうしたんだ?」


 父親の姿はよく見るのに、彼女の母親はまだ見たことがなかった。なんとなく察しはついているのだが聞いておく必要があった。


「あたしが小さいころに流行り病で死んじゃった」

「それじゃ親父さん、余計にサシャのことが心配になるのもわかるよ」

「お父さまが?」

「ああ。審判やってるとき、親父さんはいつでも割り込めるような位置取りをしてたぞ」

「気づかなかった」


 うん、おれも気づいてなかったんだけどね。

 あとから聞かされて驚いたもの。

 魔王は勇者が倒すのかもしれないけれど、そこまで支えている存在を改めて知ったよ。


「この世を動かすのは勇者や魔王じゃなく、英傑のみなさんってこったな」

「後ろで支えるのも悪くないのかも」


 彼女は、まくらを抱き寄せてつぶやいた。

 どうやらおれの言いたいことが通じたらしい。よかった。ま、でもここはあくまで勇者なりに体裁を整えて、いい感じにしないとな。


 おれは優しく微笑んだ。


「サシャがそう思うならそれでいいんじゃない?」

「え?」

「親父さん、あんたの戦いっぷりを見て戦線で戦う許可をだすっつってたぞ」

「ほんとう?」

「ああ、勇者の立場に誓って」

「そこは女神さまの名に誓ってもらわないと信用できないなあ」


 あはは。

 おれたちは笑い合った。


「ねえ、あなたはこれからも勇者として魔王を倒す冒険を続けるんでしょう?」

「それ以外にすることねえからな」

「変な言い口。じゃあ……いつか魔王を倒したらあたしにも冒険譚を聞かせてよ」

「まかせろ、つってもそんなにかからないとおれは思ってるんだけどな」

「……あたし、がんばる」

「なにを?」

「あんたが魔王に挑む前に、一緒に戦える戦力になれるよう鍛える」


 ありがたい申し出だった。

 そしてそれは現実となることを、おれは知っているのだ。なぜだか。

 彼女の想いに答えるためにも、自分を鍛えて、戦力を整えておかなかればならない。

 そのためには。


「親父さんに会ってくるわ」

「うん、でもお父さまは厳しいかただから、生半可なお願いじゃ却下されるわよ」

「それはどうかねえ……」

「え?」


 彼女が前線で活躍したいという思いをいさめたのは、割と大きな功績だと読んでいる。

 猪突猛進の娘を止めるのは、とても大変なことだろうからな。

 ぶっちゃけ上手くいきすぎて気味が悪いくらいだ。


「じゃあ謁見してくる」

「気をつけてね……」

「ふっ……はじめて心配されたな」

「んなっ!」


 ぶんっと投げられた羽毛の枕を避けて、おれはドアを開けて部屋を出た。


 相変わらず広い屋敷である。

 高級宿屋の一番部屋がいくつも並んでいるような印象を受ける。外から見れば、ただの灰色の建物なのに、なかは戦線都市というだけあって機能的に贅沢を尽くしている。蝋燭の本数は昼間と変わらないほど焚かれていて、とても明るい。石畳では寒いだろうと、毛皮の絨毯たちが廊下を埋め尽くす。


 おれは、目的の部屋の前に到着すると、とんとんとんと3回扉を叩く。

 部屋が見通せるくらい扉が開く。

 広い部屋の中央に作業机が置かれ、着ている鎧の上からでもわかる屈強な男性が、書類仕事をしていた。嫌みにならない程度の、ほどよい十字架の装飾が、橙色を反射させている銀色の鎧を威圧的に見せているようだった。


「入りたまえ」

「はい」


 素直に従った。


「娘のこと、まずは礼を言う」

「いえ、魔物と戦わせてもまったく引けを取らない実力でしたよ」

「それよりもきみは普通の魔法使いとは異なる攻撃法を使っていたな」

「ええ、まあ……」


 なぜか知っていたとは言えないもんね。

 ごまかさなきゃ。


「やはり勇者の恩恵みたいなものなのか」

「そんなところです」

「うむむ、こちらの物資で物足りるかどうか不安だな」

「ほう」


 え、マジ? やっぱりなんかくれるの? ラッキー!


 おれはいまの装備にはなはだ疑問を持っていた。攻撃力を上げる魔法具はないし、防具なら訓練用の麻の服を貸してくれたままだ。ここでどれだけ戦力があがるかが、今後のひとり旅の難易度に直結する。


「ではまず魔法具だ。<白銀の指輪>でどうだろうか」

<白銀の指輪>はオフェンスキャパシティを大幅に上げる中級魔法具だ。これに文句を言おうものなら罰が当たるだろう。すげえもんもらった。

「問題ないです、すばらしい魔法具をありがとうございます」

「ふむ、続いて防具だが、盾は使うかね?」


 すこし悩んだ。

 この世界の戦闘は、魔法使いなら魔法の応用で大抵は片がつく。

 無駄な装備をしてスタイルが崩れるほうが心配だ。


「いえ、盾は魔法で補うので結構です。お心遣いだけ頂戴しておきます」

「ふむふむ、ではマジックローブにとっておきのものを用意してやろう!」

「遠慮なくいただきますので、最高級品をください」

「ちょっとは遠慮したまえ……」

「チャンスにはどこまでも食らいつくのが、おれのポリシーですので」

「わかったわかった。では<英雄のローブ>をやろう!」


 マジかよ。


<英雄のローブ>はディフェンスキャパシティの上昇もさることながら、さまざまな補助機能が搭載されている優れものだ。ぶっちゃけ、魔王を退治するまで使える破格装備。


「ありがとうございます!」


 おれは平伏して、見えないようににやにや笑った。


「相談なんですけど、いいっすか?」

「なんだね?」

「次は砂漠の城下町ミュルヘンを目指そうと思うんですが、無謀でしょうか?」

「出現する魔物がまったく異なる水準で強くなるぞ、やめたまえ!」

「でもおれ、早く魔王を倒さなきゃならないんですよね……」

「なぜ急いでいるのかね? 我々が信用できないとでも?」


 ひええ、親父さんの怒った顔、おっかねえ!

 言いようによっては誤解されても仕方がなかった。反省だ!


「王様に言われているからですよ。他意はありませんって!」

「ほんとうかね?」

「はい。女神ルーリエの名において……」

「むうそう言われれば信じよう……。確かにミュルヘンには悪い噂も聞くが……」

「どんなですか?」

「知らずに聞いたのかね」


 都市長は呆れた様子で、じと目を向け、小さくため息をついた。

 おれは、ぴくぴく頬を歪ませて対応する。


「あいにく世界の情勢には疎いもので」

「勇者は魔王のことだけしか考えていないと言うことか……まあいい」

「役割は重要ですよね」

「うむ。で、ミュルヘンを治めているのは人間に化けた魔物だという話がある」

「倒しちゃえばいいじゃん」

「話を聞きたまえ。ただでさえ情勢が不安定ななかで、もし間違って人間の長を殺したら」

「人間世界が終わりますね。魔王グリフォンが暇してしまいますわ」

「そうならないためにも<真実の鏡>が必要なのだよ」

「なんですか、それ?」

「写した者の真の姿を現す魔法具だ」

「それどこにあるんですか?」

「ミュルヘンから北に進んだ迷宮、ピラミッドに安置されているらしいが……」

「歯切れが悪いですね」

「魔物がかなり強いのだ。悪いがとてもうちから出せる戦力はないぞ」


 うむ、充分充分。


 ピラミッドか、確かに難所だ。

 でもつええ装備もらったし、チャート的に一番レベルが高いルートを進んでいるから大丈夫だろう。……チャート? ルート?

 駄目だ、やっぱり頭にもやがかかっているかのように自分の言っていることを理解できない部分がある。なんとなく察してはいるのだが。


 迷いを打ち消すようにおれは頭を振り、戦線都市ビシャルゴを抜けて、砂漠地帯へと入っていったのだった。

【おしらせ】


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