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第4話 戦乱の世

「ここが戦線都市ビシャルゴかあ、栄えてるねえ……」


 大通りから見える町並みは、突起がえらく少ない建物が目立つ。頑丈さを重視して、装飾は取っ払ったのだろう。魔物がやってきて壊されたとしても、すぐ元通りにしてやるという気概が感じられた。


 商人のおっさんとは入り口で別れたので、いまはまたひとり。

 ……とにかく……、疲れた。


 頑丈そうな石造りの壁を眺めていると、平時ではなく物騒な世の中だと思えてくる。城下町とは違って殺気立った雰囲気が周囲に漂っているように感じるのは気のせいだろうか。人々の声に活気がないのだ。粛々と脅威に備えているのかもしれない。


「行くか」


 おれはこの都市で一番えらい人に会いに行くことにした。というかそれ以外に選択肢が思い浮かばなかった。なぜだかはやはりわからない。

 失礼になるかもしれないとも思ったのも確かだが、ふらふらしてきた意識がそれを邪魔する。一刻も早くたどり着きたい。そしてそれは正しいとわかる。


 道行く人に尋ねながら目的の建物に到着した頃には、日が沈んでいた。どんだけ広いんだよこの町……と愚痴りながら門を叩くと、歴戦の戦士みたいな屈強な男が眼前に立ちはだかった。彼はただの門番だ。目的の人物ではない。


「なに用か」

「ここを治めている方にお目通りを願いたく……」

「約束はあってのことか」

「それが今日ここに着いたばかりで、急いでいるのですが……」

「急ぎとは?」


 いかん、どんどん心証が悪くなっていっている気がする。


「勇者マハがきたとお伝え願えませんか?」


 疲れが限界まできていたので、大義名分の言い訳をしてしまった。終わったか?

 しかし、反応は劇的だった。


「し、失礼いたしました。来賓用の部屋がございますのでごゆるりと!」

「そうさせてもらえると……たすか……る」


 おれは意識を失ってしまったのだった。

 頭のなかで声がする。



【ルーリエアラート! ルーリエアラート!】


 ◆ストップウォッチを一時停止しました◆



 なんの……こっちゃ……。



 目が覚めると窓の外はもう明るかった。

 知らない部屋だ。当たり前だ。

 昨夜ここまできて、ぶっ倒れてしまったことまでは覚えている。でもその後の記憶がない。当然か、記憶は時間が経てば立つほど薄れていくもの。誰だって知っている。なんでだろうか、それがいまは、とんでもなく、怖い。



【ルーリエアラート! ルーリエアラート!】


 ◆ストップウォッチの一時停止を解除しました◆



 だからなんのこっちゃ……。


 がちゃり。

 音がしたのでドアのほうに身体を向けた。


「あ、起きてる」

「すまんな、寝過ぎた」


 金髪の美少女が姿を現した。銀の鎧を身につけ、腰には一振りの剣をぶら下げている。

 なるほど、こいつは……好みかも。じゃなくって!


「騎士のかたで?」

「お父さまに仕えているといえば騎士かもね」


 見るからに身分が高そうな格好をしている。

 そういえば娘がいたね、すっかり忘れてたわ……っておれはまたなにを考えているんだ?

 また知らないはずの知識に振り回されている感が。


 ぐぎゅううう……。


「…………」

「…………」


 盛大に腹が鳴った。昨日の昼からなにも食べずに歩き回ってたんだ。仕方のないことなのだ。女の子の前で恥ずかしいわ。


「とりあえず食事にしましょ。持ってきてあるから」

「ほんとか! ありがてえ!」


 部屋の中央にあったテーブルに、おれたちは移動した。

 対面に座る。


「勇者さんに手料理をごちそうしたかったんだけど、あり合わせでごめんなさい」

「いいっていいって、このパンとスープうめえ!」


 言葉通りに扱っていい女性ではない。

 目に野望の光が宿っているのを確かに感じる。

 察していることを気づかれないように食事を進める。


「ねえ」

「なんだい?」

「あなたが勇者ってほんとう?」

「ほんとだぞ。女神の加護を受けているからな」


 王様からの受け売りだが。


「女神さまの名前は言えるの? あたしは恐れ多くて言えない」

「ルーリエだろ」

「!」

「なあ、王様もそうだったんだが、かたくなに名前を言おうとしないよな」

「当たり前でしょう! 創世神よ! いまの世の中だって……」

「だって?」

「女神さまに見捨てられたから乱世になったってされているのに」

「そうだったら大変だな」


 おれはこの世界に自分の記憶を取り戻しにきただけであって、勇者の務めなんて考えていなかった。ルーリエもその辺のことは話してなかったしどうでもいいのだろうと。にしてもこれでひとつ確定したと言ってもいいな。おれは勇者とやららしい。


「で、そんな勇者のおれにお願いがあるように見えるのは気のせい?」

「わかる?」

「そんなすがるような目で見られちゃなあ……」


 むずかゆくて、ぽりぽりと額を引っ掻いた。

 それを見た彼女はちょっとだけ顔を赤くした。しかし、姿勢はぴんとはっており、まったく変化していない。たいしたやつだと思う。


「この町から出て森の奥深くに先代勇者の墓があるって聞いたことがあるの……」

「ほう、おれにもゆかりがありそうだな」

「あたしはこんな身なりをしているけれど戦場では後方支援しかさせてもらえなくて」

「別にいいんじゃね? 立派なお仕事じゃん」

「よくない! あたしは前線で魔物と戦いたいの!」

「うーむ……で? 勇者の墓となんの関係があるんだ?」


 彼女は胸にそっと手を置いた。

 まるでなにかの決意を抱いているようだった。


「あの場所は戦いにおもむく戦士たちの聖地でもあるの」

「行けば一人前として認めてもらえる的な?」

「そう!」

「行けばいいじゃん」

「お父さまの目があって行かせてもらえないのよ……」


 あ、わかった。はいはい。


「勇者さんが一緒についてきてくれるなら、許してもらえるんじゃないかなって」

「まあそんなことだと思ってたけど、一緒には行けねえな」


 普通ならここは一緒についていってやるべきだろう。

 そしてあわよくば彼女を味方にして冒険のお供にする……が、それはできないのだ。

 できないと、おれは知っている。

 冒険の進みが遅くなるから。

 だから断る。


「要するに充分な戦力になってるって示せればいいんだろう?」


 おれはにやりと笑って言い放つ。


「だったらおれが見極めてやるよ」


 その瞬間、太陽光がかっと鋭く差し込んだのだった。

【おしらせ】


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