第23話 そして真実へ
武器は、先ほどグリフォンと戦った時の物が残っている。
右手には疾風をまとった長剣。
左手には電撃をまとった小剣。
攻撃と見せかけて反撃を成功させてやる、とおれは意気込んだ。
グランドブレイカー上級反撃技<次元斬り>(128)を仕掛ける。この技は攻撃モーションが<笹舟斬り>(72)とほとんど同様のため区別がつかない。下から片方の剣を斬り上げ、上体が持ち上がったところで時間差の剣が振り下ろされるというものだ。笹舟斬りは弧を描く剣の通り道が、笹舟のように設計されている。モーションも短めだし技後の硬直もほとんどない。使い勝手がよく重宝される技だ。
いわば次元斬りは笹舟斬りのいいところを凝縮し、さらに高めた反則に近い技なのだ。
魔物でこれに対処できるものは、まずいない。
真魔王はにこりと笑って待ち構えている。
先ほどグリフォンの腹を穿ったのは岩石系の魔法だろう。
ならば、上級魔法は網羅していると見ていいはず。
遠距離戦に持ち込まれる前に接敵してごちゃごちゃにかき乱してやる。
そうおれは考えた。
ところが真魔王は、その場から動かず、おれの次元斬りを受けた。確かな手応え。
が……。
「がっはっ!」
喀血したのはおれのほうだった。
なにが起ったのかわからない。
とりあえずわかっていることは、いま現在、床にぶっ倒れている事実だけ。
首だけ何とか動かしてやつを見る。
真魔王はほがらかに笑い続けている。
「名前くらい名乗り合ってから戦おうよ。僕の名はギド。まあ、知ってのとおり真の魔王さ。きみも女神ルーリエから記憶を取り戻したければ何度でも降りたって拾ってこいとか言われてるんだろう?」
「ああ……やっぱりあのクソ女神が黒幕か」
「きみの名前は?」
「マハでやってる」
こんなやり取りどうでもいいのだが、回復の時間が稼げるので助かっている。
と、同時にいったいさっきなぜおれが斬られたのかを考えた。
「マハねえ……ずいぶんと大仰な名前をつけたね」
「そうか?」
「魔を破る者でマハだろう?」
「マッハを縮めてマハにしただけだ、この野郎」
「へえ、速さ由来の名前なあたり、きみもリアルタイムアタックをやるのかい?」
「マイナーだよな」
「どマイナーだよね! そもそも後発組みが有利すぎるのがいけないんだよ」
「先発組みが発掘したチャートを確認しながらタイムを縮められるからな」
「わかってるねえ! まさかゲーム内でロールプレイをやらされて談義ができるとはね!」
「ロールプレイだと?」
「ん、そうでしょ?」
「あんた……周回は何度目だ?」
「二周目だね。といっても適当に望遠魔法で状況を眺めていただけなんだけど、なかなか楽しかったよ」
「この世界の住人とは交流を持っていないのか?」
「んー……ほぼないな。魔王にちょっと助言したくらい。でも裏切るなんてひどいよね!」
「それで殺したのか」
「きみも知ってるはずだけど、真魔王は登場時に魔王を完全に殺すでしょうが」
平然と、さも当たり前のように話すギド。
この世界のキャラクターにもおれたちと同じように記憶があって、眠っている間は現実世界で活動していることを伝えるべきか。
いや、無駄だろう……この男は、この世界を愛してはいないのだ。ただテレビゲームを舞台にしたリアリティのある遊びとしか考えていない。そんなやつと話し合ってどうにかなるとは思えない。
なにより、悪神とも言うべきルーリエは、どちらかといえばギド寄りだ。だから何度もおれの要求を呑まずに、否定し続けてきたに違いない。
おれはすべてを救いたい。救えないものは最小限にしたい。傲慢だろうが、意思は固いのだ。
傷は癒えた。
「お、傷が治ったみたいだね」
「待ってたのかよ」
「一撃で決まっちゃったら面白くないじゃん。それに外から見るゲームと同じように、致命傷を受けたら動けなくなるのか確かめたかったしね」
したたかなやつだ、と思った。
優位に立っていても油断しやしない。
常に先の情報を更新し続ける強さがある。
リアルタイムアタッカーとしての実力は間違いなくあちらが上。
でもこの世界で過ごしてきた時間はこちらのほうが長いはず。
彼ら彼女らと築いてきた記憶の積み重ねが負けるとは思わない。
「さっき起ったことわかってなさそうだから、解説してあげようか?」
「そりゃ、サービス精神が旺盛でうれしいね」
「うんうん、攻撃態勢だったけど、どうせ反撃で返そうとしてくるのはわかってたからねえ。こちらも反撃技にキャパシティをほとんど振っておいたんだよ」
「反撃の反撃技か……使われると反則にもほどがあるな」
「あんなに威力がでるとは思わなかったけどね」
おれは膝を抱えて立ち上がる。
「ぬおっ!」
「おっ、まだやる?」
「当たり前だ。まだはじまってもいねえよ」
「開始早々に死にかけたのによく言うねえ」
そうして、大技を互いに封じられた両者は、小さなダメージを蓄積させていく戦いへと変更を余儀なくされたのだった。
* * *
もはや大部屋の原型を留めていない場所で、ふたりのまれびとが互いを傷つけあう。
見ている者は誰もいなく、ただ煌々と輝く大きな月が不気味だった。
夜半になっても戦いは終わる気配を見せない。
「楽しいねえ」
「あ? どこがだ」
両者ともに、びっしょりと汗を掻いている。
神経戦を続けてきた結果、当然だった。
「こうして夢のなかで戦い合うの、さ!」
「とりあえず同意はしてお、く!」
舌戦も交える。
互いにシステムを理解しきった者だ。もはや攻撃を食らうのも滅多になくなってきた。
ゲーム内だけに疲れは精神にくるのだ。
「きみは僕のなにが気に入らないんだい?」
「…………」
「魔物のために戦う僕は、物語的に間違っているのかな? 記憶を取り戻すのにも必要なんだけど」
「……一理ある」
いや、一理どころではない。
彼の言っていることは根幹を揺るがす問題だ。
整理しよう。
おれたちは現在、事故に巻き込まれて記憶喪失になっている。
記憶は封じられて、ゲーム内の各地に散らばっているから、回収するのが主目的。
回収していく過程で、ゲーム内のキャラクターも記憶を持っていることを知った。そいつがどうやら現実世界にきているらしい。
ここまではいい。
「ルーリエから聞いたぞ。あんた、全記憶の完全掌握を狙ってるそうじゃねえか」
「そりゃあそうでしょう」
「あん? どういう意味だ?」
「だってすべての記憶を取り戻さないと、僕らは目覚められないんだよ?」
当然じゃないか、という顔で語るギド。
なるほど……。
「わかった」
「なにが?」
「ぜんぶ、なにもかも、あのクソ女神が悪いってこと」
「クソかどうかはわからないけど、同意だねえ……彼女に振り回されているのが僕らだし」
「あんた、ロールプレイを楽しんでる感じだったけど、割と常識人なんだな」
「魔王くんには悪いことをしたと思ってるけど、あそこで殺さないと僕はきみと戦えないからねえ……」
「なあ……」
「なんだい?」
「おれたちもゲームに振り回されてたのかね」
「いや、ゲームじゃなくて女神さまにだね!」
先ほどまで殺し合いを演じていたのに、おれはギドと意気投合してしまっていた。
なんと言うことはなかった。
ルーリエのやつが思わせぶりなことをほざくから、勘違いしていただけだったのである。
ぶっちゃけ恥ずかしい。
「ギド、相談がある」
「ようやく名前で呼んでくれたね。なんだい?」
「おれは、物語っていう運命に翻弄される女の子を助けてあげたいんだ」
「ほう、ストーリー上のかい?」
「ああ、戦線都市ビシャルゴで逢う娘の……サシャだ」
「そういえば生きていたり死んでいたりする複雑な位置にいるキャラクターだったね」
「そうだ、おれはあいつを悪夢から解き放ってやりたい……死ぬ夢を見るんだぜ?」
「それは結構なことだとは思うけれど……僕に出来ることと言えばこれくらいかなあ?」
ギドは手早く操作し、なにかを目の前に作り出した。
彼が実体化させたアイテムは、システムに規定されていないものだった。
「その青紫に輝く水晶は、記憶の欠片?」
「きみも持ってるんだね」
「あ、いや……おれのはこれ」
おれの持つ記憶の欠片に比べれば、彼の持つそれは塊と言えるものだった。
それだけの大きさがあればどれだけの記憶が保存できるのだろう。
「これ、大きいんだけど、肝心の核になる部分が欠けてるんだ……」
「まさか……」
「そう」
「はめてみよう」
おれは記憶の塊に欠片を近づけた。すると2つは合致し、新たなるアイテムとして具現した。
「これがほんとの記憶の塊……」
「あげるよ」
「は?」
「だからこれあげるって。僕はまだこの世界を楽しみ尽くしていないからね」
「おれに逃げ帰れと?」
ギドは、はははと頬をつり上げて笑った。
「そうは言わないよ。きみの目的はさっき聞かせてもらったからね。必要でしょ」
「たぶん……これだけでかい記憶の保存アイテムがあれば、サシャを助けられるかも」
「かも?」
「じゃない、助ける」
「そう、それでこそ勇者だ」
「やめろよ、同郷の前だとこっぱずかしいだろ」
「ははは、じゃあそろそろ決着をつけようか、今回はきみが終わらせたほうが早いだろう」
「おれにおまえを殺せと?」
「今回のリアルタイムアタックはこれでおしまいさ。そもそも時間がかかりすぎだよ」
「わかった。礼はまた今度に会ったら、な!」
こうして真魔王ギドは絶命した。
と言っても彼は蘇ることが確定しているのだが。
さて、と。
【おしらせ】
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