第21話 さいごの戦いにそなえて
とりあえず来賓室に通された。
一周目と同じだ。
彼女がどのくらい一周目の出来事を覚えているのか確認する。
確認せずにはいられない。
「さて、お父さまになんのご用かしら?」
「おれ、これでも勇者なんで、一応は挨拶だけでもしておこうかと」
「そう……あたしに用があるわけじゃないのね……」
「どういう意味だ?」
「いえ、あなたがほんとうに勇者だっていうのなら、口利きしてわたしも戦わせてもらえないかと思っちゃってね……ってあら……?」
「ふーん……どうかしたか?」
彼女は綺麗な唇に人差し指を乗せ、思案気な表情を作った。
「いえ、あなたとは初対面のはずなのに、こんな会話をしたような気がしちゃって……」
「気のせいだろ」
「そうよね、変なことを言ったわ、忘れて頂戴」
「おう」
忘れられるわけがない。
彼女のなかにも残っている。
一周目の記憶が。
その記憶はきっと現実世界の誰かと繋がっている。覚えてはいないのだろうけど。
それからたわいもない話をして、一泊だけ泊めてくれることになった。
夕陽が終わろうとしている時に交代なのか、都市長が魔物との戦いから帰ってきたので軽く会話をさせてもらった。彼もどうやら記憶が残っているようだった。過剰とも言える愛娘への保護は、二周目と三周目の記憶からのようだ。愛娘が死んでいるチャート……物語もあるのだ。
そんなものを見せられて放っておけるはずはない。
なるほど、記憶の連鎖とでも言うべきか。
うまく回っている、とおれは思った。
すべての夢はやはり繋がっているのだと確信を強めた。
前線での攻撃に加わらせてもらって、経験値をゲット。
ついでに功績として装備一式をもらって、戦線都市ビシャルゴをあとにした。
真実の鏡を求めてピラミッドへ。
ヴォルさんはほとんど覚えてはいないだろうが、また鍛えてもらった。
ミュルヘンの城下町に入り、真実の鏡を使って魔物退治。
一掃したところで城に突入し、クイーントロールを撃破。
天意の塔の最上階まで上り、天職の宝珠を得て、神殿に帰還。
ブラックフェンサーにクラスチェンジ。
四獣将との四連戦に挑んだ。
このチャートではしっかり四匹と戦わされた。
* * *
常夜の森。
神聖な水の湧き出る小さな池の前に立つ。
問題はここだ、と直感が告げている。
すなわち第三クラスチェンジ。
真魔王の性能がゲームの仕様どおりとは思えない。なぜならやつもまたこの世界に転生してきており、おれと同じように現実世界のリアルタイムアタックをしているのだろうから。おれとは逆に、どれだけ早く人間を滅亡させようかと画策している点が気になる。
そういえばあったのだ。
真魔王まで倒しきると解禁される、魔物側のプレイが。
基本システムは同じだが、物語の目的が勇者による魔王の討伐から、魔王による勇者の討伐に切り替わる。
あちらにも別の女神がついているとも考えていいだろう。
いや……ひょっとすると、ルーリエのやつが両方に関わっている可能性すらある。
なにしろあいつの目的は面白いゲームの参考が見られればいい、というものだからだ。
怪しい。
そもそも信じちゃいなかったが、ルーリエはほんとに怪しい。
あいつこそ真のラスボスなのではないかとすら思えてくる。
「……正攻法だ」
おれは閃いた。
相手が搦め手の連続でくるのなら、正攻法を突き詰めて倒しきる。これしかない。
池の精霊に告げる。
「<グランドブレイカー>で頼む」
「グランドブレイカー……すべてを打ち砕く者、自らの身も滅ぼしかねない危険の道」
「そうだ」
「ほんとうによろしいですか?」
さすがに迷ったがおれは断固として続けた。
「ああ、頼む」
全身が紫色の泡に包まれる。クラスチェンジが終わった証拠だ。
ほんとによかったのだろうか。
迷わないわけではないが、この先で迷っていたら間違いなく殺される。
おれはグランドブレイカーにクラスチェンジをして、魔王城へと侵入していったのだった。
* * *
魔王城は魔物であふれていた。
四獣将とまともにやりあった歳に発生するチャートだ。
ブラックフェンサーの上位互換である剣技や体術で近接系の魔物を蹴散らす。
同じく強化されたマジシャン系の基礎魔法を組み合わせて、遠距離系や妨害系の魔物を撃退する。
はっきり言って、この辺は雑魚と言っていい。
もうアクションキャパシティのシステムに慣れきって、そして勇者になりきれるおれには、すこしばかりぬるいくらいだ。
だが油断してはならない。
魔王戦、真魔王戦までに体力を温存しておく必要がある。
魔王級の連戦というのは、バトルバランスの仕様上、最も凶悪なのだから。
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