第20話 まぼろしの再会……
「これが最後になるでしょうね」
「成功でも失敗でもな」
「あら、自信がないの?」
「そうじゃない」
あれだけ恐怖を煽っておいて、自信もへったくれもない。
やるしかないのだ。
決意をし、おれはマハとなり眼下の大地へ再び降りてゆく。
ふと。
降下の途中で記憶の欠片をひろった。
珍しいこともあるもんだ。
吉なのか凶なのか、誰にもわからない。
まゆに力が入り歪んでいる気がする……臨戦態勢に入った。
* * *
――四周目。
見慣れた天井が目に映った。
ゲーム内におけるおれの自室だ。簡素な造りのベッドやタンスや棚が配置されている。まだ現実世界の自室は思い出せないが、これはこれで懐かしさを感じる。現実の記憶は薄れてきているが、とにかく異邦者同士の戦いによる世界への影響をなんとかしなければならない。
ゲーム内にも真の魔王がいることをおれは知っているはずだった。
でも忘れていた。
なぜか?
おれのやっているリアルタイムアタックのチャートでは登場しないからだ。
真の魔王なんぞを倒すより、普通の魔王を倒して終わらせてしまったほうが、断然に早い。なにせ手を出さなければ人畜無害で、長い眠りについている設定だったはずなのだ。いわば裏のラスボス。クリア後の要素というやつだ。
だが今回は目覚める。
おれが勇者で相手が真の魔王だからか……。
それとも同じ現実世界の人間だからなのかはわからない。
感じるのだ……やつとの戦いの予兆のようなものを。
ベッドのなかで延々と考えていそうになる。
「起きなさい」
「うん、おはよう、母さん」
恒例の掛け声。
おれはさっと素早く起きる。
「じゃあお城に行って王様に会ってくるわ」
「あんたどうしちゃったの? まるで別人みたいよ。いつもの寝ぼすけさんは?」
「夢の世界に置いてきた」
「ふふふ、変な冗談を言う子ね。でも……」
「なに?」
「間抜けなところは置いてこなかったようね。寝間着で行くつもり?」
「あ……」
焦りすぎていた……。
寝間着姿でお城まで突っ走っていったら、間違いなく変人の扱いを受けていただろう。
「せめて着替えてから行きなさい」
「うん」
「せっかく王様に謁見するんだもの。身だしなみは整えなきゃね」
「はいはい、高級ブランド品なんでしょ」
「あら、よくわかったわね」
「そりゃまあ……おれの母さんだからね」
四周もしていれば慣れて当然か。
ここでおれが恒例の服に着替えさせられることは、決まっているのだ。
嬉しそうな母さんだが、この人もゲーム内のキャラクターで、現実世界の誰かと繋がり、独立した記憶を持っているのだろうか。向こうで会ってみたい気もするし、こっぱずかしくて会いたくない気もする。
* * *
お城に行き、王様に会った。
相変わらずのけちっぷりだった。なんにもよこしゃしねえ。
それでも親近感のようなものは湧いてくるというものだ。
王様に言ってやった。
「世界を救ったらなんかくれ」
「儂にやれるものならなんでもくれてやろうぞ」
ちなみにこれもゲームに組み込まれているやり取りだ。
いつまでも出発せず、王様につっかかっていると、適当にあしらわれるのだ。ぶっちゃけると、魔王を倒したからなんかくれっつっても、なんもくれない。きっと、どけちな性格に設定されたキャラクターなのだ。
しかし、こんな人でも。
現実世界で誰かの記憶と繋がっている。
そう考えると、軽々しく扱う気にはなれなくなっている自分がいることに気づいた。
途中で魔物に襲われている商人を急いで助ける。
時間が勿体ない。
* * *
戦線都市ビシャルゴに到着して、サシャが生存しているかどうかを確かめる。
「あら、どちらさま?」
都市長の住む家に駆け込み、衛士の人に事情を話すと、銀の鎧に身を包んだ女の子がドアを挟んで顔を覗かせたのだ。生きている!
なぜかはわからないが、このチャートでは生きている!
いったい、二周目、三周目となにが違ったのか考えてみる……。
「あ」
商人だ。
商人を見捨てて急いでビシャルゴに入るかどうかしかない。チャートでは助けていると時間をロスしてしまうため、見捨てることが前提となっている。だが、今回のおれは……マハは、できうる限りでもう人が死ぬのを避けたいと思っていた。
商人を助けることと、サシャが生きていることの因果関係は不明だが生きていた。そのことが、たまらなく嬉しい。
生きててくれた……。
マハから涙が流れる。
おれは流しているつもりはないのに。
「どうかされたのですか? 戦線に涙を流すような者はいなかったはずですが」
「手厳しいですね。都市長にお目通り願えますか?」
おれは涙を拭った。
そして毅然として会話をはじめる。
「生憎ですが、お父さまは魔物の軍勢との戦いに出ている最中でして」
「そうですか……は?」
「え?」
サシャに怪訝そうな顔をされてしまった。
都市長がここにいることは、一周目のチャートで確定していたはず……。
あっ。
「昼ですもんね。魔物たちが活発な時間にやってきてしまいすみません」
「いえ、あたしも一緒に戦わせてもらいたいのですが、こうして」
彼女は両手を振って、手持ち無沙汰なことを告げた。
「都市に留まっているよう言われているのです」
「都市内の情勢を見守るのも立派な仕事だと思いますよ」
「そうは思っていないでしょう?」
「そんなことありませんって」
「うそつきの顔をしています」
ずばっと言われた。
「うそつきの顔ってどんな?」
「顔の筋肉が緊張で固くなっています」
「よく見てるんですねえ……」
おれは素直に感心した。
すると彼女は、鎧を着込んだ胸を張って、答えようとして……仰け反りすぎて、転びそうになった。背中に手を回して、倒れそうになったところを支える。
「は、はわわわわ……」
「お、重いっす!」
「あなたは見るからに貧弱そうですからね!」
「否定はしませんが、魔法使いに多くを望まないでください」
と、答えたところで気づいた。
戦闘以外の場所でも魔法は使えるのではないか?
ゲームの仕様に捕われすぎていないか?
右手に疾風の魔法ピュウを放ってみる。
ぽんっという音とともに彼女の背が見えない壁に押されて。
「……」
「……」
抱き留める形になってしまった。
気まずい時間がどれだけ過ぎただろうか。
彼女のほうからそっと離れて……。
ばっちーん!
一発、痛いビンタをもらってしまったのだった。
【おしらせ】
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