第16話 わすれてしまった約束
謎の声が聞こえたと同時に周囲は真っ暗になった。
グリフォンと思われる金色の彫り物だけが眼前に輝いている。
記憶がさらに蘇った。
おれは<グリフォンクエスト>というレトロRPGをどれだけ早くクリアできるか、という競技<リアルタイムアタック>に挑戦していたのだ。
ただ、挑戦していた場所が悪かった。
携帯ゲーム機だったし、どこでもプレイが可能だったので、学校の帰りによそ見をして、車だかトラックだかに跳ねられた。
すぐに病院に運ばれたのだが、脳に障害が残るとされ、夢うつつにぼんやりしていたところ、女神ルーリエの元にどうやってか、たどり着いてしまったようだ。
ルーリエの言い分は間違っていない。
グリフォンクエストのリアルタイムアタックで夢中になっていたおれは、あの世界で産まれ、育ち、何度も生を繰り返したといってもいい。
ゲーム世界に記憶が散らばっているというのも嘘ではなかった。
おれは現代日本で産まれて育った日本人なのだ。
そのことがいままで……クリアするまでの間、記憶から抜け落ちていた。現代日本とゲーム内では文明がまったく異なるが、〝正直どうでもいい〟ことだったので、記憶が刺激されずに没頭してしまったのではないだろうか。
だが、納得できないところもある。
おれは、ルーリエの傍まで歩み寄った。
彼女は、最初におれが出逢った部屋で、せんべいをぼりぼり囓っている。
「なんで、リアルタイムアタックを迫ったんだ?」
ずいっと顔を寄せて、ルーリエに聞く。
「き、記憶ってのはね、時間が経てば経つほど消えていってしまうものなのよ」
「それでリアルタイムアタックを勧めた、と? 繋がらんな」
「あの世界に散らばったあなたの記憶の大半が、現代社会でのことだったのよね。あはは……それを隠していたのは詫びるわ」
ぎろり、おれは睨む。
「まだあるだろう?」
「時間経過で〝記憶〟が曖昧になっちゃうのは謝らないわよ! 人間だれだって夢のなかじゃそうなんだし!」
「ほう……待て。夢? 夢だと? 夢とどう繋がるんだよ?」
「テレビゲームっていうのはね、夢のなかで作られて下ろされているものなの」
「それで?」
「新作の制作が詰まっちゃったから、現代日本人の優秀なプレイヤーにアイデアを求めようと思って! 夢から盗んで……じゃない参考にさせてもらっているのよ!」
「なるほど、夢で起ったことだと忘れちまうからか?」
「そうなの! 証拠隠滅もできて一石二鳥なの! わたしが作ったことにできるのよ!」
「この名作もきみが?」
「ううん、わたしの先代。わたしは続編を任された次代を担うスーパークリエイターなの」
ふふんと胸を張る女神さん。
ゲスだよ。
じと目になるおれは間違ってないよな。
最近のテレビゲームの評判がよくない理由がわかる。
要するに、自分じゃどうしようもないから他人に頼ろうって魂胆なわけだ。
できる人間は、もうプロの第一線でクリエイターやってるはずだよ。
さらに問題は他にもある。
「他にもリアルタイムアタックに入ってる人間っているのか?」
疑問に思ったので聞いてみた。
「みんな、もの凄い速さでクリアしちゃって、満足して去っちゃった。ほとんど、ね」
消え入るような声。
悲しい過去を聞いた気がする。
まあ、いい。
おれの目的は記憶を取り戻すことだ……ゲーム内で何かを忘れている気がするんだが、いまは放っておこう。
せっかく綺麗に着込んだ十二単と化粧を台無しにするほど泣いている女神がここにいる。
「安心しろ。おれの冒険はまだ終わってない」
「ふぇ?」
「現代の記憶もまだ不安定だ」
「それは、そうよ。一回でぜんぶ取り戻せたら散り散りになった記憶の場所がわかってるってことじゃないの、そんなことあり得ないわ」
「そう、あり得ないな。だから、取り戻すまで何度でも潜ってやる」
「なんでそこまでして?」
「おれがリアルタイムアタッカーだからだ」
「……いまいち理由になってない気がする」
「いいんだよ、雰囲気だから!」
仕切り直して。
ルーリエがこめかみをぐりぐりしながら答える。
「じゃあクリアタイムは無視をして記憶の捜索をするのね」
「一度目の冒険で、おれはなにか大切な約束をした気がするんだ。それも探す」
そう、なにか大切な約束をした気がする。
が、どうしても思い出せない。
クリアまでに時間がかかりすぎたのか、あるいは女神のいうとおり夢での出来事だからなのかはわからないが、とにかく思い出せない。もどかしい。
「わかったわ。でも無理はしないでちょうだい」
「どういう意味だ?」
「あなたの場合、夢と夢を行き来している状態なのよ」
「ふむ」
「そうすると夢から出られずに、自分を夢の住人だと思い込んで出られなくなっちゃうの」
「それは困るな。現実には戻りたい」
「つまりあなたは、現実と夢、ここね。ゲーム世界も夢なのよ。この3つを繰り返し行くことになる」
「混乱しそうだな」
「そうなったら最悪よ、どの世界にも自分の居場所がないように思えるようになって自害」
「ま、なんとかなるっしょ」
あっはっっは。
笑い飛ばした。
「なんでそんなに脳天気なの?」
「リアルタイムアタックは、何度も何度も繰り返して、当然だが道中で失敗して死ぬ」
「そ、それが……?」
「比べればたいしたことないっちゅーか」
片手をひらひらと振って事の軽さを伝えようとする。
しかし、ルーリエはまた違った思惑があるようだ。
「いいわ、いってらっしゃい」
「死んだらこっち戻ってくるから、最初からやり直しよろしくな」
リアルタイムアタックではやり直しは最初からと決まっている。
女神パワーだかなんだかで途中から再開などという、ぬるいプレイは望んでいない。
おれは眼下に広がる大きくて綺麗な世界を再び見下ろす。
目を閉じると、浮遊感に似たものが襲ってきて、再びゲーム世界に降りたのだと実感した。
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