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第13話 かなしみの汗に決意をあらためて!

 一番手、カンガルー型の魔物。


 クラスチェンジの塔で戦った石像が、鈍重な拳闘士だとすると、こいつは中軽量級の拳闘士になるだろう。オフェンス・アクションとディフェンス・アクションを、絶え間なく数値変化させてくる。攻防にバランスの取れたスタイルで攻めてくる難敵だ。かつ、いままでの総決算でもある。


 アクションキャパシティを効率よく運用しなければ、この魔物との戦いは長引いてしまう。早く世界を救いたいおれにとって、それは避けたい。おさらいにちょうどいい相手とも言えるかもしれないが。

 オフェンス・アクションは拳による超接近型。

 ディフェンス・アクションは足さばきによる超回避型だ。

 ブラックフェンサーの近接攻撃を試す機会としても合っている。


 荒野にひゅうと一際つよい風が吹く。

 …………

 ……。


 カンガルー型の魔物の姿が消えたのは刹那だった。

 がいん! 両手に鋭い衝撃。

 おれはいつの間にか魔法を発動させ、両手から氷塊と岩石の剣を作り出していた。その双剣の腹に、敵のショートアッパーが衝突した……と思われる。

 予想以上の難敵におれは気を引き締める。

 オフェンスとディフェンスを五分に張っていたおれに、いまの攻撃の内訳はわからない。

 しかし、攻撃と同時に目に映るぎりぎりの速さで引いたところから見て、オフェンスの数値はそれほど高くなかったはずだ。


 距離を取られたので遠距離魔法で追撃をかけたいところだが、あまりの速さに捉えるよりも痛打を浴びて攻撃を不発に終わらされる可能性が高く、有効策とも言えず……。


「カウンターだな」


 ぼそりとおれは敵に聞こえない程度の声量でつぶやく。

 相手が攻撃してきた瞬間に、こちらの攻撃を合わせる。つまりは反撃。

 言うのは簡単だが、やるとなると話は変わる。

 すさまじい速さの攻撃に反撃をたたき込むのは、至難の業だ。

 おまけにキャパシティアクション数値の駆け引きもあるときている。

 死ぬほどの威力はないにせよ、苦戦は避けられないとおれは覚悟する。

 …………

 ……。

 ずどどどどど!

 まただ、また拳を剣の腹にたたき込まれた。

 タイミングが合っていない。

 しかし、相変わらず、こちらにダメージはない。おちょくられているのか、とも思えるが、敵の筋が立った真剣な表情を見てそれはないと思考をかき消す。

 …………

 ……。

 三度目の打ち合いで、敵の考えていることが読めた。

 こちらの攻撃を待っている、というか攻撃手段を見極めようとしているのだろう。

 おれが適当に振った剣閃が当たったのだ。

 ただし、ディフェンス・キャパシティに値を割いていたため、ダメージは発生せず、相手も無傷だった。

 これはまずい。

 いままでに戦った者たちは、自分から攻めるのが身上だった。だが、この敵はおれと同じく相手に攻めさせてから自分の攻撃を入れさせようとしている。これでは埒が明かない。緊張感が増していく一方で、時間はじりじりと無慈悲に過ぎていく。


 汗がぽとりと落ちる。

 両者の汗だった。

 太陽が雲に隠れて、一瞬だけ暗がりが広がった。

 …………

 ……。

 おれはこの状況を打破するため、新しくオフェンス・アクションを習得した。

<クリスクロス>という。反撃に反撃を合わせるという反則じみた技だが、そもそも設計上にディフェンス・アクションを主体とする魔物があまりいないあたり、死に技(使えない技)の印象が強い。

 魔法や技にも習得に必要なポイントがあるため、早々に魔王を倒したいなどと思わなければ、非常にもったいないとも言える。

 なお、このオフェンス・アクションは、ディフェンス・アクション無視というとんでもないおまけ効果まで付随する……。

 決して見えないわけではないが、目に映りにくい攻撃に、おれは、<クリスクロス>(150)を発動して対応した。


 ぱぱぁーん!


 二本の剣が腹で拳を上空方面へを受け流す。膨大なオフェンス・アクション値に耐えられず華麗なディフェンス・アクションを見せていた敵の体勢が崩れた。

 すると、チャンス状態<ブレイク>が発生した。

 ブレイクは特定のアクションを致命的に中断させた際に突入する。オフェンス・アクションは不可、ディフェンス・アクションに割けるキャパシティにマイナス補正がかかってしまう、絶対に陥ってはならない状態。

 ごくごく一部の魔物にのみ設定された実験的なシステムだと思い出し……あれっ?

 また例の記憶障害である。

 かぶりを振ってブレイク状態にある敵に向かって攻撃を炸裂させる。


 苛烈な縦斬りと横斬りを組み合わせた<十文字斬り・絶>(40)と<アスタリスクエッジ>(80)を組み合わせた上級連携剣技<夜星斬り>(160)だ。夜空に輝く星の点をなぞって切り裂いていくような動作は、ほかのオフェンス・アクションにはない華がある。

 威力と拘束力がべらぼうに高く、必要アクションキャパシティ値は、なんと最低160でもからである。この技を連発していれば勝てるんじゃね? と考えてしまうかもしれないが、絶対の弱点というものはある。


「ぐにゅにゅにゅ……」

「ぐおおおおおおお!」


 変な声になってしまった。

 当たり前だが、技の動作は長くてその間に攻撃を食らうと、高確率で中断されてしまうこと。


 さらに。


「ぎ、ぎにゅにゅにゅ……」

「す、すばらしい、技だな」


 技を出した後にちょっとだけ長い硬直を強いられてしまう。

 もちろんこの間はディフェンス・アクション値が防御の成否に関わるので、文字通り必殺技でなくては使い物にならない。この技を出したらトドメくらいの気持ちがなければ、とてもじゃないが使えはしないのだ。

 果たして三合ほど濃密な打ち合いをした相手は。

 どさり……。

 地に突っ伏したのだった。



 * * *


「大将おおおお!」

「死ぬなああああ!」

「戻ってこおおおおい!」


 怒号の響く荒野の風は冷たくなり、そろそろ夜が近いことを告げていた。いまだに好敵手の意識は戻っていなかった……が。


「む……俺は……生きている……、のか?」


 泣きつく三匹の魔物。

 四獣将と名乗っていたが、実際のところカンガルー型のやつが親玉だったらしい。

 連戦かと思ったのに、ぶっ倒れた魔物に残りの魔物が集まって泣き崩れるんだもの。

 何事かと思っちゃったよ。


「む、勇者。なぜ俺は生きている?」

「いや、そりゃ峰打ちで死んだら困るでしょうが」

「峰打ちで俺は死にかけたと! くううううぅぅぅ不覚っ!」

「おい馬鹿やめろ」


 どこから取り出したのか、小刀を取り出して器用に手で持ったので、おれはあわててぺちっと叩いて落としてやった。


「仕方のないやつめ……して、俺との戦いでなにかつかめたか?」

「あんだって?」


 今度はおれが驚く番だった。

 気づかれていただと……?

 ブラックフェンサーの近接技に慣れようとしていたことに?

 まさか手加減……。


「おっと勘違いはするなよ。俺は本気だった。本気で負けたのだ。誇るがいい」

「誇りゃしねえけど、あんたみたいな化け物が何匹もいるなら、泣いているところだ」


 あれ?

 そういえばいつもの声がまだ聞こえない。

 殺さなかったからか?

 だとしたら損をしたなあ……たっぷり経験値もってただろうに、くっそぉ。


「ふふふ、俺に勝ててもまだ強さに不服か」

「ふぇっ? いや、なんでだ?」

「悔しそうな顔をしておったからな」

「顔に出ていた? そら失敬」


 うーん、人間と共存したいっていう言い分もなかなか通った御仁に思えてきた。

 この魔物なら、魔王を倒したらほかの魔物が暴れないように取り計らってもらえる気がする。

 そう、すべて暴れ狂う魔王が悪いのだ。

 魔王さえいなければいい。


「安心しろ。我ら四獣将が出張って魔王城は留守も同然だ」

「ってことは?」

「もはやおまえにとっては雑魚しか残っておらぬ」

「ほうほう」


 やっべええええ!

 もう有効な経験値稼ぎができねえじゃん!

 ボスモンスター連戦チャートってここで途絶えるんだっけ?

 おれは焦りつつも表情には出さず、続きを聞いた。


「ここより<常夜の森>に入り、<魔獣の腕輪>をつけて抜ければ魔王城の前に出る」

「魔獣の腕輪?」

「我ら四獣将を倒した証となる魔法具だ。ほれ、これだ」

 なにやら円筒形の物体が宙を舞う。

 両手でしっかり受け取る。

 禍々しい、というよりは荒々しい装飾の施された腕輪だ。つけたら呪われそうだが、一気に強くなれそう……。

 呪われたからなんだ。こっちとら、女神る、る、るー? るーなんとかさんの加護がついているんだ、平気に違いねえ! あれ、……女神の名前ってなんだっけ? 勇者の証のはずだ。忘れたらまずいいいい、そうルーリエだった! ふう、危ねえ危ねえ。っと、腕輪だ。


 かちゃかちゃぱちっ。

 つけてみた。

 めっちゃアクションキャパシティ値が上がってびっくらこいたわ!

 呪いもなし。なにこの壊れアイテム。ちょー嬉しい。

 憧れの瞳で魔獣の腕輪を眺めていると、四獣将の親分から声がかかった。


「うむ、似合っておるぞ。これからはおまえが四獣将を治める長だ」

「ふーん。は? え? ん?」


 おれは自分に指を指して、四匹の魔物に死線を向けた。

 みな、こくりこくり、と笑顔でうなずいている。


「冗談きついよ?」

「冗談ではないぞ」


 おれは、額に手のひらを当ててのけぞった。

 それを見たカンガルー型の魔物は、至って真面目に目を合わせようとしていた。


「さあ、我らを認めさせた実力、魔王さまにも見せてやるといい」

「おまえらぁー」

「なんだ」「なんぞ」「なに」「なんです」

「おれの仲間になったんだから、魔王も一緒に倒しに行こうぜぇー」

「いやだ」「やだ」「やだね」「ことわる」


 どいつもこいつも使えねえ!

 いらぬ恨みは買いたくないということか。

 どうせおれが魔王に負けたら力尽くで従わされていたとか説得するに違いない。

 世渡り上手な連中め……こっちは魔王を倒す以外に生き残る道はないというのに。



【ルーリエメッセージ、ルーリエメッセージ】


 ◆レベル24から32にアップしました◆


 ◆新たなる成長段階に入りました◆


・アクションキャパシティ値が160から286に上昇

・新魔法の習得可能(省略、自己参照のこと)

・新アビリティ習得可能(省略、自己参照のこと)

・第三クラスチェンジ解放



「うおっ!」


 不意を突かれたタイミングだったので、謎の声に驚いた。

 は? 一気に8レベルもアップ?

 あ、そっか。

 さっきの戦闘が四獣将をすべて倒したものと同価値なのだと悟った。ボスモンスター四体分ならこれだけ上がっても不思議じゃない。

 魔物たちに驚きの声を聞かれたかな、と思ったが聞こえなかったようだ。

 みな「あーこれで暴虐的な任務から解放される」だの、嬉しそうに会話していた。

 ……魔物もすべてが人間を憎んで戦っているわけじゃないんだなあ。

 やっぱり魔王がいけないんだ、魔王が。


 夜が更けると大変なので、おれはさっさと出発することにした。


「おまえら世話になった。じゃあ魔王を倒しにいってくるわ」

「さっさと倒して平和を取り戻してこいよ!」


 どいつもこいつも勇者を対魔王の便利道具とでも思っているのだろうか。


 火炎の魔法<ボウ>を灯りにして、おれは荒野を駆け抜ける。

 目指すは魔王城の手前<常夜の森>だ。

【おしらせ】


 このお話を気に入っていただけましたら、下記2点をよろしくお願いいたします。


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