迷惑な羊
ある牧場に羊がいました。
その牧場には羊は一匹しかいませんでした。
羊は朝起きるとまず牛の餌場で朝食をすませます。
そして、家鴨の水場で身体を洗うと、犬小屋で二度寝をします。
牧場の皆はとても迷惑していましたが、
牧場には一匹しか羊がいないので、文句が言えません。
二度寝から起きた羊はまず、犬小屋の前に置かれた犬の御飯を食べます。
そして、隣の牧場に遠出して、他の羊達と遊ぶのです。
隣の牧場の羊達は数が多すぎて、誰が自分の牧場の羊なのかを覚えていません。
だから、その羊が別の牧場から来ていることに、気付きもしません。
遊び疲れたら、他の羊達と同じ食事をして、藁の中で寝ます。
夜になり羊は隣の牧場から帰ります。
月明かりの下、羊は急いで帰ります。
夜道には狼が出るからです。
やっとの思いで牧場に戻りますが、柵の扉は閉じられていて入れません。
羊は鳴きます。
牧場全体に響くほどに。
でも、誰もやって来ません。
羊が嫌いだからです。
やがて羊は鳴き疲れ、地面で横たわって寝ます。
朝になり、牧場の柵の扉が開きます。
羊は起きると、そのまま開いた扉を通って、牛の餌場に向かいます。
昨日のことはすっかり忘れているのでしょう、
心持ち嬉しそうに歩いていきます。
そして、また一日を過ごすのです。
そうやって、羊は老いて亡くなるまで、毎日を幸せに暮らしました。




