166、生きている壁
それでもしばらく時間が経過したためか、心拍数と呼吸数が正常に戻ってきた。なるべくポーカーフェイスを装いつつ、切り出した。
「まあ、そうね……このままこうしてここにとどまっていれば、彼女の二の舞になるでしょうね。この生きているダンジョン壁によって」
声を落としつつ、この場所の問題点を無難にまとめる。だからと言ってどうすればいいのか少しもわからなかったが、とにかくここはヤバい、と肌が必要以上に訴えていた。
「……」
反論が来るかと思いきや、誰も立ち向かってこず拍子抜けした。この緑色に輝く両サイドの壁や床や天井が意志ある者のように突如盛り上がって襲いかかり、機体を押しつぶすのは今や明かだ。まったくホラー映画みたいだ。
「……そりゃ誰もここを走っていないわけですよね。潰されてしまっているんでしょうから」
珍しくサラジェンがボソッと喋る。嫌な話だがそういうことだろう。しかしこいつ、自分の崇拝者が自分のせいで草葉の陰逝きになったっていうのかやけに落ち着いているな。AIかなんかなのか?
「あんた平気なの? 彼女はあんたが召喚した、大事なファンじゃなかったの?」
いかん、つい口に出していってしまったわ。まあいいか。
「別段平気というわけではありませんが、今は悲しみにくれて時間を費やすよりも、彼女が命を賭して入手した情報を元に対策を練りつつ急場をしのぐことでしょう。危険はまったく去っていませんので」
彼女は顔色一つ変えずに正論を述べる。まあ、確かにおっしゃる通りなんだけど……こいつ酷薄過ぎるわ。
「いっそ引き返してみる? 色が違うところまで戻れば安全かもしれない」
一応思いついたアイデアを述べてみる。まあ、至極当然な考え方だが。
「でも、今からするのははかなりの時間ロスですわよ! ただでさえ下位グループですのに!」
お、遅まきながらルーランが反論開始した。やっぱこうでなくっちゃな。




