161、ファンサ
「では、お願いしてもよろしいですか、メマリーさん?」
「あ、ああ……わ、わかったよ……」
まるで熟練の魔性の女のごとき手練手管を使うサラジェンによって追い詰められたメマリーは、あっけなく承諾しやがった。てか私の時と全然違うぞ!
「た、ただ、一つだけこっちからもお願いがあるんだ、サラジェンちゃん……」
「何ですか?」
「ほ、ほら、いつも配信の頭にやってるじゃないか、あれを一発キメてくれよ……今ここで!」
「……」
私を含め、全員無言のまま数秒間が経過した。こ、こいつ……スケ番じゃなかったのかよ!?
「……いいでしょう、ファンサは当然ですからね」
サラジェンのスゥーッと強く呼吸する音が通話越しに聞こえた。ま、まさか……。
「はーい皆さんおまたかおるーん! メマリーちゃんのアイドルこと蜘蛛娘の九千九百九十九万石サラジェンちゃんだよー! もっかい言うけど蜘蛛娘お嬢様の九千九百九十九億九千九百九十九万石サラジェンちゃんだよー! ついでに言うけど蜘蛛娘お姫様の九千九百九十九兆九千九百九十九億九千九百九十九万石サラジェンちゃんだよー! ちゃーんと覚えて帰ってねー! 滅びよ人類!」
「おお……おお……おお……」
感極まったかのような、メマリーの嗚咽がピンク色の空間に木霊する。ってなんかすっげえ気まずいんですけど、なんだよこの新手の拷問は!?
「ありがとう……本当にありがとうございます……もう我が人生に一片の悔いもねえぜ……」
「いや、そこまでじゃないだろう!?」
思わず我慢できずに突っ込んでしまったけど、サイコロ野郎は無視するかのようにクルリと向きを変えると、再び壁に溶け込むように一体化していった。どうやら本当にやる気満々の様子だ。
「あれ、でもあの方って動画配信出来るんですの? 今まで一度も観たことないですわよ」
出発間際になってルーランが極めて重要な点を指摘した。おい!




