159、イジリーノ
「あんたひょっとしてずーっと壁に擬態してここまで来たってわけ?」
「うるせえな! 別にいいだろ! てか開始早々お前らがファイヤーダンス祭りなんかやらかすから、咄嗟に壁際に逃げて一体化してからそのまんまだったわけだよ。つまり貴様のせいだ!」
サイコロロボットこと【タイオゼット】は背後の壁をメキメキいわせつつ、ニュルニュル触手を隙間から出しながら私の【ラキソベロン】を指し示す。そういやそんなこともあったっけか。
「それは私のせいじゃなくてここにいるルーランのせいでしょうが!」
「あら、それはつまり妾の怒りを買ったセンナさんのせいではありませんか?」
憤慨した赤毛野郎が私に突っかかって来る。遅刻したくせにふてぶてしい奴だ。やっぱこいつが生贄になるべきじゃないか?
「ややこしいわお前ら! てかなんでこのド腐れ悪役令嬢ズがあんたとつるんでるんだよ、サラジェン?」
「……行きがかり上仕方がなかったのです。助けてもらった恩もありますし。それよりもあなたに頼みがあります、メマリーさん……否、チンコイジリーノさん」
「そ、その名前で呼ぶなあああああああああああああ!」
突如ルーランのやつが悲鳴を上げ、おかげで耳が痛くなった。
「ん? その腐った名前、確かどっかで聞いたような……」
「お忘れですか、お嬢様。つい先ほどサラジェンさんの配信動画を鑑賞した折りに、言っておられたではないですか。『ニップルヘイム皇帝さん、チンコイジリーノさん、レ・マン湖の騎士さん、皆いろいろありがとー! もっともっともーっと廃課金してねー! 腎臓って二つあるんだよ! 金歯だっていけるよ! 皆結構きれいな目してるじゃーんデギズマン!』って」
「ああ、あれあんただったの!」
ようやく私は得心がいった。てかひでえな。
「そうだよ悪いかよ! 俺はサラジェンちゃんの大大大大大ファンだったんだよ!」
「でもチンコもないのにそのハンドルネームはまずいんじゃないの?」
「そこかよ! うがあああああああああああ!」
またもや彼女の絶叫が炸裂し、私の鼓膜を貫いた。




