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142、三体

「お嬢様! お嬢様! しっかりしてください!」


『センナサン! 起キテ! マダ寝ルニハ早イヨ!』


「……」


 はるか彼方遠くから、どこかで聞いたような二人の声が響いてくる。


「あんなうるさいやつらほっといて僕と遊ぼうよ!」


 雪原のように真っ白な空間で、目の前のなんか桃色っぽいユニコーンが私に気安く語りかけてくる。なんだお前。こっち来んな。


「母乳母乳母乳母乳母乳母乳ーっ!」


 傍らの巨大な朱色で塗りたくったように真っ赤な赤ん坊がへその緒を振り回しながら叫び声を上げる。私はそんなものは出ないぞ。


「あらあらあら、ホホホホホ」


 流れるように長いピンク髪を引きずったサラジェンの生首が私の足元をゴロゴロと転がりながら歌うように笑う。相変わらず作り物みたいにつやつやな顔だ。切り口から血が噴き出しているし、なんかどんどん化物屋敷じみてきたな。ていうかなんなんだここは。


「なんか気色悪いしベトベトするしこの場所は私のいるべきところじゃない気がするからちょっと退散することにするわ。じゃーね」


「行かないでええええええええ! ここは楽しいよおおおおおおお!」


「母乳母乳母乳ぼにゅうぼにゅう母乳ぼにゅうボニュウ母乳ぼにゅうボニュウBONYUUUUUUUUUUUUUUU!」


「あーらあらららららららららホーホホホホホホホホホ!」


 片手を上げて立ち去ろうとする私に向かって、三種の魔物が奇声を発しながら一気に襲いかかる。


「化け物のくせにうざすぎるわよあんたら。くらえ、ドネペジル! ドネペジル! ドネペジル!」


「「「うがあああああああああああ!」」」


 私の矢継ぎ早に発した重力魔法三連発によって魔物三連星は地にひれ伏し、私はその悲鳴によって覚醒した。


「ってお嬢様! 一体何をなさるんですか!? いきなり魔法を唱えるなんて!」


『ヤヤヤヤヤヤヤメテクダサイヨ心臓ニ悪イシ! ッテ心臓ナイケド!』


「……えっ、どうしたの? 私なんかしたっけ?」


 まだ意識がぼんやりしたまま、私はうっすらと目を開けた。なんか凄いすっきりした気分で、今なら宇宙空間にだって飛び出していけそうな気がする。もっとも口の中だけは最悪な気分だが。

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