121、配信動画その4
「お嬢様、ちゃんと画面に注目してください!」
「わかってるわよアロエ! ちょっと頭の中でソロバン弾いていただけだって!」
「まあ、確かに営業力高いですよねこの娘……僭越ですがお嬢様も少しはああいうキモオタじゃなかった視聴者向けの対応をやってくれると財布的には助かるんですが……」
私は自分が豚どもの脳内であんなことやこんなことにされちゃっているところを想像してまた吐き気がこみあげてきた。うがあああああああああああああああ!
「絶ーっ対に嫌! こっちはやらせとか一切なしの、リアルエンターテインメント路線が売りなのよ!」
「そうは仰られてもうちに来るのはスパチャやアイテムどころかスペースコロニーの天井だの壁だの宇宙窓だの宇宙船だのの器物破損に対する膨大な見積もりの請求書ですので……」
アロエの愚痴を聞いていて、私はとある記憶がよみがえり、戦慄を覚えた。
「昨日の夜あんたが枕にしてた書類の山ってそれだったの!?」
「はい……更に今朝のスーパー銭湯の破壊分を加えたら、どんな恐ろしいことになるのかと考えるだけでちょっと頭痛が……もうしゃぶるためのパンツでも売るしかないかもしれませんよお嬢様」
「ぐええええええええええええ! あれって私だけのせいじゃないっちゅーのに! せめてルーランと割り勘にしてよ!」
「お気持ちお察ししますがもうすぐ現着しますよ! 全集中!」
「わかってるわよ!」
アロエの言う通り、見る見るうちに他のOBSたちをごぼう抜きにしていった【グリベッグ】は、目的地が近づくにつれて徐々にスピードを落としていき、やがて急停止した……深淵の落とし子のような蠢く巨大子宮の群れの手前で。
『うぴゃあああああああああーっ! ナニコレナニコレもひとつおまけにナニコレー!?』
既に充分高かったオクターブが更に三つほど跳ね上がり、最早金属音の領域に突入した。
「耳がああああああああ!」
私はまたもや絶叫した。てかこんなんばっかだな!




