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103/164

103、罠

「ホーリン、大丈夫!?」


「これは……罠だ! ハメられたんだ、センナ! 今すぐここから逃げろ!」


 身体中からあらゆる体液を垂れ流しながらホーリンが必死の形相で叫ぶ。とても見捨ててトンズラ出来るような状況ではない。しかも予言はほぼ聞いていないときている。


「で、でも……」


「いいから早く! 捕まりたいのか!? 君には大志があるんだろう、センナ!?」


 髪の毛と同様に青ざめた顔で、彼女は私を説得にかかる。その間にも電子音はピーピーガーガードンドンピャラピャラとお祭り騒ぎだ。当然例のナースも異常に気づいてこちらを振り返り、「なにごと!?」とでも言いたげな表情をして動きが止まっている。超やべえ!


「……わかったわ」


 確かにこんなところで全てを棒に振るわけにはいかない。私はやむなく踵を返すと入ってきたドアを目指して全速力で駆け出した。


「ま……待ちなさい、そこの人! あなたここの看護師じゃないでしょう!?」


 看護師が床に散らばった時計やらコップやら歯ブラシやら軟膏やら錠剤やらメモやらなんやらかんやらに足元を取られてまごついているうちに、エージェントのように素早くさっきの入り口へと一目散に舞い戻る。廊下に飛び込むとき、気になって後ろをチラッと見ると、ホーリンは苦痛に顔を歪めながらも、視線はベッド下を向いていた……地窓の方を。


 そして、それが生きている彼女を見た最後だった。



「後は病院カーからダッシュで逃げ去ってこの【ラキソベロン】に戻ると中で悶々と過ごしていた。以上が私の知っている全てよ」


「そ……そんなたわごとを信用しろとおっしゃるのですか!? 無理に決まっていますわ! つまり急に謎の力が働いたとでも!? そんなのあなたにとって都合が良すぎますわ!」


 話を最後まで聞き終わったルーランは、通話越しではわからないが、おそらく蒼白な顔をしているのだろうか、引きつったような声で呻いた。こいつ、よっぽど私のことを嫌いなんだな……昨日助けてやったのに。

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