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トワイライト・クライシス  作者: 幸田 績
Phase:04 動き出した歯車
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Side B - Part 9 夢のつづき

Phase:04 - Side B "Kimitaka"

 続いて、川岸の親父さんの車に女子二人が乗り込む。出発の準備が整うと、助手席に座る同級生が窓を開けた。



「今日はありがとう、小林くん」


「オレは大したことしてないよ。〈エンプレス〉に攻撃当てられたのは、川岸の筋がよかったからだ。来週の休みにでもゲーセン行って練習する?」


「父親の目の前で娘をナンパするとはいい度胸だな、チャライカー二号。サッカー班の〝じきたん〟掲示板に不純異性交遊を密告してやる」



 でぇぇぇぇぇ!? なにデタラメ言っちゃってんの水原、オレと川岸は別に何もないっつーの! 親父さんに誤解を与えるんじゃねえよ!



「ご、誤解ですお父さん! オレ、娘さんとはただの健全なお友達で!」


「そっかぁ、澪も今日から高校生だもんね……そういうこともあるかぁ……」


「鈴歌! お父さんも悪ノリしない! ……ほんっとごめん」


「いいっていいって。じゃあな二人とも、また来週!」



 茶色いタントを送り出したところでふと気づいた。みんなオレに「乗ってく?」っていてくれないまま帰ったことに。

 いや、違う。正確にはまだ、りょーちんが残ってる。でも今、ハネショーとめっちゃいい雰囲気じゃん? 手代木てしろぎマネとペットもいるし、オレ、お邪魔虫じゃん。

 第一、サッカー男子日本代表の現役エースと最強の幼なじみが完全プライベートで乗る車に、フツーの高校生が同乗させてもらえるなんて奇跡ある?



「おーい、()()()()? 何してんだおまえ、みんな帰ったぞ」


「あ、はい。オレも帰りま……え?」


「もう暗いだろ、寮まで送ってやる。ついて来い」


「――と偉そうにふんぞり返ってるそこのシャッチョサン、おまえも俺の運転で俺の車に乗っけてもらう側だからな?」



 そうやって一人でモヤモヤしてたら、信じられない言葉が耳に飛び込んできた。

 奇跡だ。ウソみたいな奇跡、ホントにあった! オレ、この二人と一緒に帰れるってことでいいんだよな!?



「その……本当に、いいんですか?」


また会おう(オ・ルヴォワール)、って言ったろ? ()()時俺に言いそびれたこと、改めて聞かせてくれよ」


「えっ、ええっ? あのっ……りょーちん、今なんて――!?」



 それと、りょーちん――オレのこと、下の名前で呼んでくれた。オレと出会った日のことを、最推しがはっきりおぼえててくれた!

 どうしよう。ヤバい。これ以上話しかけられたら涙腺崩壊する。今日は人生最高の日だ。週明け、川岸に新しいハンカチ渡してめっちゃ感謝しなきゃ!



「おおーっ、富士山ナンバーだ! かっけぇ!」


『富士山ナンバーは山梨にもあるが、あちらは赤富士が描かれている。こちらは山が青く、茶畑が一緒に描かれた静岡らしい絵柄だ』


「ショウを乗せる福祉車両への改造を頼んでたんだけど、整備間に合わなくてさ。これはその代車で()()から借りてるやつなんだ。ほら」


「【有限会社 佐々木自動二輪工業】と……【たい焼き みゆき】?」


『マスターの実家がバイク屋を営んでいることはファンなら履修済みだろうが、最近はその事務所で作るたい焼きも評判だ。県外に実店舗がないことから、人呼んでたい焼き界の〝さわやか〟とも』


「そんな大層なもんじゃないって……でも、機会があったら一度食べてみてくれよ。絶対後悔させないからさ」



 手代木マネの解説を聞きながら黒いステップワゴンの車体横を見ると、りょーちんの家業の屋号と【自家用】の表記、そしてたい焼きの絵があった。さほど珍しくない車でも、ドライバー補正でカッコよさが増して見えるな。

 助手席はハネショーの指定席らしいので、オレはテールゲートからチャリを積ませてもらって、アンリの隣の中列席にそろそろと滑り込んだ。



「乗ってもらった後で悪いんだけど、おまえ羽毛アレルギーある?」


「ないです。ないけど……ハネショーさん。この鳥、結構怖くないですか?」


「あ?」


「だって、脚太くてがっしりしてるし、ずーっと目ぇ見開いてるし。地味なグレーのうろこ模様ってのも、猛禽もうきん類みたいじゃないですか」



 正直に「怖い」って言っちまったのを聞き逃さず、飼い主が凄む。その眼光に一瞬(ひる)みながらも、オレは気を取り直して言葉を続けた。



「キレんなってショウ。俺も初めてアンリに会った時は怖かった」


「アンリサン、怖クナイヨ。タイ焼キタイ焼キ」


「でも、おしゃべり好きな子どもだと思って接すると、ギャップ萌えでだんだん可愛く見えてくるぞ。極彩色の真っ赤な尾羽がチャームポイントなんだよな」


「ン~」


「そ、そうでしょうか……」



 りょーちんがブレーキを踏み込み、エンジンのスタートボタンを押した。その音と振動に反応してか、アンリが突然幼い女の子の声で歌い出す。



「安心安全ナ合法ドーピング。タイ焼キ、ミ・ユ・キ」


「音域とレパートリーが多いしゃんべー(おしゃべり)ほどヨウム界ではイケメンらしいけど、とうとう作曲までし始めたぞアンリ氏」


「お? CMソングに採用するか? じゃあ契約料と著作権料払え。飼い主(おれ)に」


『プロサッカー選手の実家にドーピングって歌詞使う時点でボツです社長』



 今日、予想外の形で叶った夢はまだ覚めない。これから寮に戻るまでの間、アディショナルタイムはまだ続く。

 どうかこのまま、時間よ止まれ――。オレは興奮冷めやらぬまま、夜の学校をあとにした。

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