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トワイライト・クライシス  作者: 幸田 績
Phase:04 動き出した歯車
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Side B - Part 8 アンリサンダヨ!

Phase:04 - Side B "Kimitaka"

『まったく、人騒がせな奴め。マスターもマスターだ、後先考えずに荒療治をするんじゃない。だいたい――おい、なんだこれは。鳥かごか? 邪魔な……』


「ハーイ、アンリサンダヨ。タイ焼キ」



 空気を読んで姿を消し、事態を静観していた手代木てしろぎマネがステルスモードを解いた。でも、現れていきなり文句を言い始めたバチが当たったのか、車に積んであるケージに背中をぶつけてしまう。

 金網越しに見下ろすヨウムと目が合い、パートナーAGIはその場で凍りついた。この人視点からだと、背中に人乗っけてそうなファンタジー世界の巨大怪鳥系モンスターに狙われる感じか……こっわ!



「どうやら丸く収まったようだね。良平君、その車の助手席にたい焼きが――」


「ウェ~イ! タイ焼キイエ――イ!」


「たい焼き絡むとあからさまに知能が低下するなお前。とうとう劇症型急性たい焼き欠乏症候群の発作で気が触れたか、この末期患者」


「俺じゃない! アンリ! おまえの鳥が俺を真似まねてんの!」


「タイ焼キ、タイ焼キ、イェイイェイ! タイ焼キ、ウ・レ・シイ! イェイ!」



 アンリはりょーちんの声で絶叫しながら、体を上下に揺すって見事なヘッドバンキングを披露した。

 くちばしの端に服が引っかかったせいで、手代木マネが巻き添え食ってたけど……うん、見なかったことにしよう。



「大丈夫大丈夫、それ甘噛みだから」


『おえっぷ……おい羽田、目がキマってるぞこのヨウム! 何か変なエサ与えてないだろうな!?』


「あー、点目な。興奮するとそうなるんだ。たい焼きって言葉聞いただけでシャルルが嬉しがるの見て覚えたから、条件反射的にそいつも喜んでんだよ」


「そんなぁ……地元紙のコラムにアンリの写真出して語る予定なのに、このガンギマリ顔じゃ俺が静岡しぞーか全土の笑いものになっちゃう……」


「もうなってんだろ。サッカー男子日本代表のネタ枠が何を今さら」


「ネタで選出記念品ブルーペナントもらえるほど甘くないんだよなあこの業界」



 そうそう。水原大先生の解説によれば、このヨウムってのは人間の子どもに匹敵する知能を持つともいわれる頭のいい鳥。オウムに近い種類で、おしゃべりが得意。人間と簡単な会話ができる個体もいるらしい。

 平均寿命は五十年。野生では絶滅危惧種に指定されてる希少生物で、飼い主登録の届け出が必須。買おうとすればその寿命とほぼ同じ数か、それ以上の渋沢栄一が要るんだとか。こ、コワモテなのに超セレブなお鳥様だ……!



「はっはっは、よく似てるじゃないか。良平君、たい焼きという言葉に反応して喜びの舞を踊る芸を仕込んだのはキミだな?」


「大筋で容疑を認めたいところですが、違うんだなこれが。初対面での第一声が『ボンジュール、リョーチン! タイ焼キ!』だったんで俺は無罪です」


「いや有罪だろ。こないだ、客が事務所入ってきたタイミングで『イラッシャイマセ、タイ焼キイエ――イ!』って叫びやがったんだーよ! こっちはてめえ本人と勘違いされて大変だったんだからな!」


「でも、そのおかげで契約取れたんだって? 天才セールスマンじゃん。給料フルーツ払いで羽田不動産の営業社員にしようぜ」


「俺のこと〝社長シャッチョさん〟って茶化してくるコイツを? しかも『わざと』舌足らず装ってんだぞこの五歳児。ナメてるだろ」


「シャッチョサン、ナメテナイヨ。アンリサン、カジルヨ」


「そういう意味じゃねぇぇぇぇぇ!」



 アンリがとんちの利いた答えでみんなの笑いをかっさらう中、りょーちんは独り軽バンの助手席を漁っていた。ドアを開け、町内にあるたい焼き専門店の名前が書かれた紙袋を手に、最推しは青い目をキラッキラに輝かせて戻ってくる。



「どれどれ……えっ、こんなに? 一匹放流してもこの量なんです?」


「今日の勝利給ごほうびだ。すべて二匹ずつ入っているから、正一君と分けて食べなさい。なお、彼を落ち着かせた功績を考慮して減俸は取りやめとする」


メルシー・ボクー(ありがとうございます)! ショウ、どれがいい? どれから食べる?」


「とりあえず薄皮粒あん。あとは腹具合と相談する」


「タイ焼キ、タイ焼キ! ウェ――イ!」



 紙袋の中をのぞき込み、今日イチの笑顔を見せるりょーちん。やっぱりこの人は笑ってないとしっくりこないな。

 その様子にまだ湿気多めのハネショーがげんなりしていると、軽自動車が一台バックでこっちに近づいてきた。川岸の親父さんが駐車場から戻ってきたんだ。



「では、澪と鈴歌ちゃんは僕が送って帰ります」


「頼んだよ。高野君は私が引き受けるが、工藤君はどうする?」


「ん~……しーちゃむとバトらないなら、ハヤトんの車にお邪魔しま~す」


「ハヤトん!?」



 オレとりょーちんのツッコミを無視し、カバンを抱えた工藤は我が物顔で軽バンの後部座席に乗り込んだ。さっきハネショーを乗せてた公用車で、両側前ドアに【逢桜町あさくらまち】の文字がある。



「争い事なら、もうお腹いっぱいだよ。一度役場に寄ってこの車を返し、そこから先は私の車に乗り換えることになるが、構わないか?」


「おけおけ。あ、ウチ勝手に後ろ乗っちゃったんで、しーちゃむは前ね」


「……はあ」



 ずっと黙ってた高野さんが、特大のため息をついて助手席のドアを開ける。その様子を見届けると、徳永さんは羽織を脱いで刀をくるみ、後ろの荷台にそれを収めた(この時、工藤は「触ったら銃刀法違反になるよ」と(くぎ)を刺されていた)。

 それから、手早く着物にたすきを掛け、下駄を靴に履き替えて運転席に回る。すげーなこの人、和服で車運転して帰るのか!



「お先に失礼するよ。皆、夜道に気をつけて」


「……お疲れさまでした」


「それじゃあみんな、おっさきぃ~!」



 開けた窓から笑い声を響かせる金髪ギャルに、オレも手を振り返して見送る。やがて白い車は分かれ道を左に曲がり、見えなくなった。

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