表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トワイライト・クライシス  作者: 幸田 績
Phase:04 動き出した歯車
82/106

Side B - Part 7 サッカーファミリー

Phase:04 - Side B "Kimitaka"

「女性不信に恐怖症だと? 私と澪は今朝、普通に会話できていたぞ」


「容体については、あらかじめ良平君から話を聞いて知ってはいた。現在は日常生活にほぼ支障ないレベルまで回復している、という話だったが……」


「しーちゃむが触ったからだけど、支障ありまくりじゃん」


「女性に触れられたことで過去のトラウマが再燃し、フラッシュバックが起きたのだろう。心的外傷後ストレス障害、PTSDの典型的な症状だ」



 川岸の親父さんが駐車場から車を持ってくる間に、オレと川岸、水原、工藤の女子三人は昇降口に戻り、生徒会がまとめてくれたっていう荷物を探した。

 一年の靴箱近くで見つけた四つのカバンに、荒らされた形跡はない。変なシミや臭いも奇跡的についてない。よかったー!

 荷物を引き取り、四人で徳永さんの元に戻ったあとは、高野さんを監視しつつみんなで話しながら時間を潰すことにした。今の話はその時聞いたものだ。



「大家さんが、PTSD……」


「正一君は首都直下地震で多くのものを喪い、彼自身も負傷している。あの様子では、おそらく被災後に身体のことでなじられた経験があるのだろう」


「ンだよ、それ……ハネショーは全然悪くないだろ! なんでケガしたことを責められるんだ、誰だよその女!」



 はらわたが煮えくり返るってのは、こんな感情を指すんだな。オレにとってハネショーは尊敬する選手の一人ではあるけど、りょーちんほどの愛着はない。

 でも、スポーツ界では競技に関わる人全員を仲間、ファミリーとみなす考え方がある。オレもそうした考えのもと、小林公望(きみたか)という選手を構成するすべてに感謝しろと指導を受けてきた。



「静まれ、大林。お前がキレても過去は変わらない」


「わかってるよ水原、あと〝小林〟!」



 だから、ハネショーの苦しみはオレにとっても自分事。独りよがりだと言われても、オレは自分に関わったすべての人にずっと笑っていてほしい。

 りょーちんだってそうだ。ハネショーが傷つけば、その涙に最推しも心を痛める。反省の色なく故意だと明言されたことで、高野さんに対するオレの怒りと不信感は頂点に達していた。



「……あたし、大家さんに謝らなきゃ。そんな事情抱えてるって知らなくて。今朝、女の人に囲まれて動けなかったって聞いた時、無神経に聞き流して……!」


「そんな気にしなくて良くない? 女のコってだけで無理なら、視界に入った時点で『来るな!』って言うっしょ。みおりんは信用されてたんだよ」


「工藤さん……」



 と、ここで川岸が急に泣き出した。ワケをくと、どうもハネショーとの間で配慮に欠けたやり取りをしちまって、そのことを気にしているらしい。

 結果だけ見れば、確かに「知らなかった」じゃ済まされないな。でも、相手は女の人が苦手なこと黙ってたんだろ? それって、どうしようもなくないか?



「事情を知らなければ、私たちが変な意識や先入観にとらわれることはない。大家だから、障害者だからと身構えられるのが嫌だったのだろう」


「水原君、といったか? 彼女の言うとおりだ。正一君はキミたちを信頼しているからこそ、自らの問題を秘密にしていた。事情を知らなかったことに起因する当時の発言や、その選択を悔いる必要はない」


「でも、あたしは――」


「変に気ィ遣って態度変えられても、かえって失礼だしムカつくんだーよ。てめえらはこれからも知らないていで接しろ。いいな」



 声のするほうに目を向けると、りょーちんたちがいつの間にか車外に出ていた。赤く泣きらした目、トゲのある物言いとは裏腹に、ハネショーはどこか吹っ切れたような顔をしている。



「大家さん!」


「ほら、さっさと帰っぞシャルル。なんか疲れたし腹減った」


「はいはい。社長さんの仰せのままに」


贅沢ぜいたく言わねえから、冷凍食品で簡単に済ますぞ。お前秘蔵の浜名湖うなぎ(天然)とか、金目鯛の煮つけとかあるだろ」


「……ショウ、おまえそれマジで言ってんの?」



 ひとまず、こっちは一件落着……ってコトでいいのかな。こりゃ前途多難だわ、と肩をすくめるりょーちんにハネショーが突っかかり、今度は明るい声が響く。

 いつしかすっかり緊張は解け、その様子を少し離れた場所から見守るオレも、みんなも自然と表情を緩めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ