Side B - Part 2 一抹の不安
Phase:04 - Side B "Kimitaka"
「では、落ち着いたところで名乗るとしよう。私は徳永隼人、ゼネラルマネージャーとして逢桜ポラリスを預かる者だ」
「ほぇ~、ポラリスの……えええええええー!?」
『人事権を持つ最高経営責任者だ。GMともいう』
「そ。このおっさんに年俸プラスたい焼き出来高払いで雇われてんの俺」
「なに普通にタメ口利いてんですかりょーち――ん!」
いやいやいやいや、ウソだろ? 会社でいったら社長、CEO、経営陣で一番偉い人じゃん!
監督やほかの選手とうまくやれても、この人の機嫌を損ねたら終わる。ただの長身コスプレおじさんだと思ってたのに、そんなすごい人だったなんて!
「お、良ちゃんの飼い主さんじゃん。おつおつ~」
「飼い主って何だよ……俺は犬か」
『訂正しろ工藤。うちのマスターは送り狼だ』
「ぶっさらうよ?」
今思えば……工藤のヤツ、なーんか最推しと距離近かったな。気になってはいたけど、オレは徳永さんの電撃訪問にビビり散らかしててそれどころじゃなかった。
「どういうことだ。あなたは内閣府の官僚だったはずでは?」
「キミは、あの時の――そうか。原作者を知っていると言っていたな」
「私の質問に答えるのが先だ」
「内閣府からの派遣という形で、逢桜町役場へ籍を置くことになってね。現在は危機管理課の別働隊、別班としてこの春新設された〈特定災害〉対策班で指揮を執っている」
黙ったままの川岸とは対照的に、水原は徳永さんへキツく突っかかった。こんな時でもキャラがブレないのは逆に感心するわ。
官僚……っていうと、超一流のエリート国家公務員だよな。中でも内閣府はいろんな政策に幅広く関わってる(って授業で習った)し、偉い人が「被災地」を視察しに来ること自体はヘンじゃない。水原は何をそんな気にしてんだ?
「役場の危機管理課……〈特定災害〉……〈モートレス〉対策の、別班?」
「あなたの言うことが事実なら、肩書きは役場危機管理課の〝対策班長〟であるはずだ。それがなぜ、バーチャルサッカークラブの責任者を名乗っている?」
「それが本来の仕事だからね。スポーツを通じた先進的な町おこし政策に取り組む自治体の支援。数年間で事業を軌道に乗せ、東京に戻る予定だよ」
川岸の顔がどんどん青ざめていく。わかるよ、二人とも難しい話してるもんな。
心配すんなって! もし、そのイカれジーニアスが徳永さんに手を出そうとしたらオレが止め――
ん? あれ? 待てよ。そういえば、オレの親父が今朝【町の広報見ろ 役場からサッカークラブ行った人いる】って〈テレパス〉送ってきたっけ。
〈Psychic〉使えるなら、ちょっと〝じきたん〟で探してみるか。えーっと、町からのお知らせ、『広報あさくら』最新号……
「私の身近に、ポラリスへ出向した役場職員がいましてね。去年までは総務課の防災担当でした」
「まさか……違う。そんなはずない」
あ、これだこれだ。【町職員 四月一日付人事異動】。町も出資する逢桜ポラリスの運営事務局長に、内閣府からお助け職員の徳永さんを迎えたって書いてある。
「その上司を名乗る人間がなぜここに? バーチャルサッカークラブの責任者がなぜ、こんな血生臭い場所に現れるんだ!」
「先ほども言ったが、私は現場主義者でね。町おこしを妨げる脅威とはどういうものか、一度自分の目で確かめてみたくなった。デビュー戦を控えた看板選手たちに何かあっても困るしね」
「看板選手『たち』? まさか、あの大家も――」
「はて、何のことやら。入居祝いの花束について相談を受けたから、人数に合わせて女性には百合、男性にひまわりはどうかと答えただけだよ」
お偉いさんは、意味深な発言をして不敵に笑った。これ……フツーの高校生がひょんなことから社会の「裏」に触れちゃう、セカイ系の始まりだ。
政府直属の秘密組織、クセ者だらけの凄腕集団。海外ドラマとか二次元の異能力バトルでよくある中二病設定、リアルでキタ――ッ!
そしたらアレか? ラスボス系上司が徳永さんで、そのゼネラルマネージャーに雇われてるりょーちんも一味の人間。チャラ男のイケメンエージェント、対人任務の最終兵器ってところか。
手代木マネはズバリ情報屋。普段「サイバー空間は俺の庭」って威張ってるくせに、本番でやらかすドジっ子属性だ。またの名を一級フラグ建築士ともいう。
「ところで良平君、その顔のケガはどうした?」
「慣れないドンパチやって弾かすりました。しょんぼり」
「遠目から見てもかなり目立つぞ。あとできちんと手当てしなさい」
「マジで? うわ、ショック~。誰からとは言わないけど、目立つところに傷作ると色々問い詰められるんだよな……」
そんな妄想を楽しみつつ外部派遣者の欄へ目を移した瞬間、オレは川岸の顔色が悪くなった本当の理由を知った。
役場の人がよそ行くってなるとさ、官公庁や公的機関に行くイメージだよな。なのに一人だけ、それも聞き覚えのある名字の人が、民間企業へ行ってたんだ。
【総務課 防災担当課長補佐、株式会社逢桜ポラリス 次長 川岸一徹】
「違う! だって、お父さんは――!」
「答えろ。お前たちはこの町をどうするつもりだ!」
ドスの利いた水原の大声が響く。徳永さんは黙って右手を挙げ、オレたちの背後を指し示した。
みんなの目が一斉にそっちへ向かう。大講堂前のロビーと校舎A棟の廊下をつなぐ部分、少し高くなった踊り場に、逆光を浴びる人影が見えた。
「もちろん、護る。護り抜く。それが公務員の仕事だから」
「お父、さん……」
マジメで、優しくて、ちょっぴり気弱そう。頼まれたらノーと言えない日本人。いかにも公務員ですって感じがする友達の親父さんが、唇を噛んで立っていた。




