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トワイライト・クライシス  作者: 幸田 績
Phase:04 動き出した歯車
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Side A - Part 2 「無敵」の論理

Phase:04 - Side A "Mio"

 鈴歌の陰から飛び出した工藤さんは、高野さんの脇をすり抜け一目散に駆け出した。完全ノーマークの人間に接近を許した〈エンプレス〉は、すぐに高速演算で相手の行動を予測する。

 空想の攻撃を無効化する幻想看破、理論武装を展開している女帝の前には、やけくその攻撃なんてただの茶番にすぎない。


 さあ、どう出る? 今のわたしは、何をもってしても倒せない。やれるものならやってみろ。

 挑発するように激しく点滅を繰り返す〈エンプレス〉に向け、工藤さんは――



「食らえ、正義のななみんアッパー!」


「ギュピ……ッ!? ガッ、ザザ――ッ!」



 ピンクの花柄ネイルで飾った指を握り締め、通じないはずの鉄拳制裁を通した。女帝は表面をグーの形にべっこりへこませ、壊れた電子機器のようなノイズを上げてみんなの頭上をすっ飛んでいく。

 で、そのままシンボルツリーの枝の中に突入。見えなくなっちゃった! と思ってたら、その先で衝突されたらしい誰かの悲鳴が聞こえた。



『ん? 何やら下が騒がし――ごはッ!?』


「なん、だと……?」


「いい判断です。が、あの手の敵を殴る人間は貴女あなたぐらいですよ七海」



 いやいや鈴歌さん、この展開に一番びっくりしてんのはあたしだよ! 「物理攻撃以外効かない相手にパンチは有効」って理論的には筋が通ってるけど、火の玉とかプラズマ系って物理攻撃無効でしょ普通! なんでぶん殴れたの!?

 落ち着け……落ち着いて思い出せ、川岸澪。あたしはこの場面のバトルロジック、空想概念マウントバトルの優劣判定をどう定義した?



(――ん? ()()?)



 その結果、鈴歌たちもひとつの可能性にたどり着いた。工藤さんのオカルトに対する理解が薄く、敵の特性を知らなかったために起きた奇跡だ。

 〈エンプレス〉の無敵状態が成立するには、厳密にいうと二つの条件がある。ひとつは自分への攻撃が空想であると信じ、かつそれが事実であること。

 そして、もうひとつが「相手にも自分の攻撃が通じないと思い込ませる」こと。どちらか片方の定義に疑いがあれば、そこを突くことで相手の持論を崩せるんだ。



(高野さんと鈴歌には『光球系の物体に物理攻撃は通じない』という固定観念があった。そう思わされるまでもなく、そうだと思っていた)


(効くと思えば効くし、効かないと思えば効かなくなる。この戦いの性質と法則性……私は理解したぞ、澪!)



 逆に、工藤さんはあの姿の〈エンプレス〉になんの先入観も持ってなかった。予備知識も判断材料もなく、プラズマは殴れないって知らなかった。

 現実世界に干渉できる敵は全部殴れるものだと思って、そのことを少しも()()()()()()()()()



(最強の盾は、()()()()()()()()()()()()()ほこを持った相手がその盾を強いと認識しなかった場合、理論上の強度は普通の盾に成り下がる)


(そして、矛が実際に刺さった瞬間から、その盾は〝最強〟じゃなくなる――!)



 国語の授業で「矛盾」の故事を習った時のことを思い出す。あの鮮やかなロジックに魅了され、あたしはこの戦闘システムを考えついた。

 もう二度と、絵空事なんて言わせない。科学が想像を力に変え、具現化した空想で現実を変える戦い。想いの強さが力になる、主義主張と信念のぶつけ合いを。



「〈エンプレス〉は、工藤が攻撃の有効性を疑うと予測して無敵になった。対する工藤は攻撃が通じると妄信して、その無敵を破る概念を帯びた」


「その結果、敵の論理が破綻はたんし攻撃が通った――と。七海には、アレが本来殴れない部類のモノであることを知らないままでいてほしいものです」


「ええ、本当に。ところで高野さん、先ほどの声は?」


「声?」



 結局、このマウントバトルは自分と自論を最後まで信じた人が勝つ。今回〈エンプレス〉側は完璧に防御成功の条件を満たしてたけど、オカルトに詳しくない工藤さんにしてみれば、そんなの知ったこっちゃない。

 そこに「絶対アイツをぶん殴る」って意志の強さも加わって、相手の思い込みをぶち破った工藤さんのKO勝ち! 試合終了~!


 よし。作者によるロジック解説、こんな感じでどうでしょう?



『すまんマスター、どうやら俺はここまでのようだ……ガクッ』


「そういうのいいから。蹴落とすぞ」



 光の玉が吸い込まれていった樹上から、男性の声がふたつ降ってくる。うんざり顔の鈴歌、ため息をつく高野さんとは対照的に、今回のMVPは顔を輝かせて見上げた先にピースサインを送った。

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