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トワイライト・クライシス  作者: 幸田 績
Phase:05 現実は構想よりも奇なり
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Side B - Part 3 伏線

Phase:05 - Side B "Mio"

「それはそうと、今日は四月二日だね。誕生日おめでとう、良平。バイクの寒冷地仕様換装と軽量化の経費はサービスにしておくよ」


「えっ、マジで? 魔改造すんの大変だったろ、マジでいいの?」


「確かにね。安全性と安定性を保ちながら六キロも軽くするのは骨が折れたけど、法の範囲内でより扱いやすく乗りこなすための改造なら断る理由はないよ」


「やった――! ありがと、修ちゃん! 俺、すっげーモチベ上がった!」



 子どもみたいな笑顔で無邪気にはしゃぐ弟の様子に、修平さんが口元を緩める。

 そうだ、今日はりょーちんの誕生日だった! SNSは朝から【#りょーちん生誕祭】のハッシュタグでお祭り騒ぎ、週末も手伝って静岡(特に富士市の周辺)は聖地巡礼で大変なことになってるらしい。

 さっきのりょーちん親衛隊は、ここ逢桜あさくらでも彼氏さんを巡って混乱が起きないよう規制したかったのかな? とりあえずあたしもお祝いしよう!


 

「誕生日? 今日? そうなんですね、おめでとうございます!」


「サンキュ! ……いや、メルシーのほうが俺っぽいか? まあいいや、あとでおまけに一匹つけてやるよ。ありがとな!」


『ん? マスターの実家、佐々木自動二輪工業はりょーちん教の総本山とされているはずでは? こんな記念日に工場を空けて大丈夫なのか?』


「今日は緊急修理以外の入庫を取りやめ、うちと兄のところのスタッフ総出でたい焼きを売りさばいてくれているんだ。あちらの店先もかなりにぎわっているそうだよ」


「どんだけ現実逃避したいんだよ223(ふじさん)総合法律事務所!」



 りょーちんに言葉をかけると、ナチュラルに三か国語でお礼が返ってきた。昨日、クラスメイトの女子たちが言ってたマルチリンガル説は本当かもしれない。

 ここまでなら、普通のお祝いムードだよね。地球上のどこでも見られる光景、特段気になるところもない。


 でも、ここはあたしの創った世界。あたしが書いた小説の中。プロットどおりに話が展開していけば、このあとの会話で重要な伏線が張られるはずだ。

 あたしは作中で主人公にさせるつもりだったのと同じく、フラグ検知アンテナを張りながら平静を装って、再びみんなとの会話に臨んだ。



「ところで、俺が生まれた日に何があったか知ってる? 空から巨大隕石が降り注いだ日。生まれ年を口にすると、海外では結構驚かれるんだ」


「巨大な隕石……()()()()()()()の破片か。同名のフランス人天文学者が最初に発見したことでその名がついたとか」


「水原、だっけ? おまえさんはやっぱ知ってたか。そうそう、俺とおんなじ名前。ハヤさんは当時、大学でニュース速報を見たって言ってた」



 今から二十三年前、()()は突然現れた。これまで観測されたことのない未知の星、のちにシャルルと名づけられた小惑星が地球に接近。四月二日に地上へ衝突する可能性が浮上した。

 人類はてんやわんや、世界の終わりかと騒がれる中、国連と主要各国はターゲットに核弾頭をぶち込んで破壊することを決定。日本からも防衛省と宇宙開発関連企業が参加し、オール・ユニバースのプロジェクトチームが結成された。


 これまでいがみ合ってきた国や地域も、この時ばかりは全面協力。あらゆる技術を結集し、地球を三回滅ぼせる量の爆弾を小惑星へ撃ち込んだといわれている。

 あたしの気のせいだったらいいけど、その状況……ポスト・〈黄昏の危機トワイライト・クライシス〉っていうか、今の逢桜を取り巻く現状とよく似てるな。



「おお~、いい感じにアポカリってるね。そんでそんで? 良ちゃんじゃないほうのシャルルは結局どうなったの?」


「一発目は不発、二回目は爆発したものの力不足。昼間の地球からも肉眼で小さく見える位置まで迫ったところで、三発目のミサイルが到達」


「おお……!」


「その時、最初の不発弾が奇跡的に作動し、青い光を放ってシャルルは爆散。一部が極超音速で地上に飛来・墜落した。なのに、人的被害はゼロ。奇跡」


「あの、お二人さん。俺の名前出すのやめてもらっていい?」



 盛り上がる工藤さんと七星ななせさんにげんなりした顔を向け、三回目のたい焼き漁獲作業を進めるりょーちんが壁についているボタンを押した。

 すると、りょーちん親衛隊の女性たちが再び登場し、取っ払ったバリケードを曲がりくねった待機列に組み替えていく。焼き上げた分のたい焼きをお客さんに引き渡す準備が整ったようだ。



「しっかし、ここまで来ると隕石から命名された説ワンチャンあるな」


『あるかぁ?』


「あるよ! よーく考えてみろセナ。答えを知る者はすでに亡く、真実は闇の中ってのもまたロマンあると思わないか? 実はロマンのかたまりなんじゃないの俺」


「……りょーへーがまた変なこと言ってる」


「ごめんね七星さん、この子たまに不思議な言動をするんだ。さて――ただ今よりたい焼きの引き換えを始めますので、皆さんよろしくお願いします」



 修平さんの一言で、たい焼きッチンカーは通常営業に戻った。工藤さんたちの誘導で、あたしと鈴歌は少し離れた場所に移動する。

 店の前には再び長い行列ができ、続々と品物の引き換えに来るお客さんはりょーちんと握手したり、ツーショット写真を撮ったりでみんな興奮気味だ。



「みおりん、リンちゃん。ウチら、二人に話があんだけど」


「何だ」


「……ご注文はお決まりですか?」



 七星さんが無表情で〈Psychic(サイキック)〉の仮想スクリーンを立ち上げ、デジタルメニューと注文フォームを差し出した。ここに来てから三十分以上経つにもかかわらず、当初の目的をまだ達成していなかったという事実にあたしは思わず吹き出してしまう。

 能天気に「やっばぁ、超ウケる! マジゴメ~ン!」と叫ぶ工藤さんとひとしきり笑ってから、あたしたちはようやくメニュー表を手にした。

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