8.私ってば天才!?
裏切者がいたから捕まえたらしい。ついでに尋問中らしい。
そして驚いたことに、そこまで私の計画通りなんだとか。
「避難民に命がけの作業を押し付けることで、内通者が自身の身にも危険があると考えて逃亡すると考えられたわけですね。通常ならここから出て行っても行く当てがないうえにまず受け入れてもらえるかも分からないため命がけで頑張るはずですが、それでも逃れようとするものというのは避難先がすでに頭に入っている可能性が高い。つまり、後をつけていけば向こうの拠点も見つけられるというわけですね」
なに言ってるんだって感じだけど、実際それでうまくいったんだから反論のしようがない。私ってば、そんな計画を立てられるなんてもしかすると天才なのかも。
スパイが潜んでいることは考えていたけど、まさかこんな方法で見抜けるなんてね。スパイだって命は惜しいし情報はどうにかして持ち帰りたいだろうからこの方法が通じたのは当然かもしれない。だけど、逆に考えると避難民はそんな状況の中でもとどまり続けてるてことだよね?
覚悟が決まりすぎてて怖いんだけど、
こっちを相当恨んでて、いつか復讐しようとか企んでないよね?
「内通者が見つかったなら、公爵様や国に報告が必要そうね」
「はい。どちらに情報を送りますか?」
「そうねぇ…………両方、が良いと思うわ」
避難民に敵のスパイが隠れてるって情報は、予想できていることだとしても報告はしておいた方が良い。
ローレンとしては公爵様か、国から送られてきた元伯爵領を統治してる代官か、どちらかに知らせるべきだと思っていたみたい。
だから私は、そのどちらかではなくどちらもを選んだ。
理由は当然、私がどちらかを軽視しているという風に思わせないため。
代官より公爵様の方が立場としては偉いんだけど、それはそれとして国から派遣されている人間を軽く扱うというのもまずいのよ。
実際その判断は間違っていなかったようで、
「お嬢様。入ってきた情報によりますと、代官様と公爵閣下がこちらから提出させていただいた情報で相手側を牽制しようとしていたようです。どうも、派閥争いのようなものが始まりそうな様子でして」
「何やってるのよあの人達…………しばらく私たちは様子見させてもらいましょう」
「かしこまりました。すでに両陣営からパーティーやお茶会といったものへの招待状が届いておりますが」
「避難民の対応、特に近隣の領地での避難民の動向が不明なことを理由にお断りしておいて」
権力者の馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉ!!!!!!
まさかの公爵様と代官の派閥争いがスタートしてしまっていた。危うく私がどちらかだけに情報を渡していたとなれば、私がそちらの派閥についたと思われていたわね。
今後の私の身の振り方も考えておかないと面倒なことになりそう。下手にどちらかとつながりを強くするような選択をしたらもう一方から敵視されて、最悪潰されかねないわ。
子爵家なんて、公爵家から睨まれても国からの役人に睨まれても吹き飛びかねない家でしかないの。例え派閥争い後にうまみがあるかもしれなくても、今崩壊するリスクの方が高いように思えてしまうわ。
「とはいえ、今まで周辺の領地を傘下に置いてきていた以上公爵様の方が優勢でしょうね。派閥争いも3ヶ月すれば終わるかしら?」
「分かりません。代官様が一般的な役人の方であればそうだったのかもしれませんが、此度の代官様は国王陛下の覚えの良いお方のようでして」
「覚えが良い?お気に入りってこと?」
「はい。これはあくまでも噂ですが、王都で勤務されていた頃は毎日のように陛下を褒めたたえる文書を各地(もちろん陛下のもとも含む)に送り、朝昼晩と1回ずつ陛下を褒めたたえる歌を大声で歌われていたとか」
う、うわぁ。滅茶苦茶分かりやすい御機嫌取り。そこまで行くと逆に清々しいわね。
取り入ることができたのも納得できるわ。
ただ、それだけで公爵様と戦っていけるというのも不思議な話ね。
いくら陛下のお気に入りと言えど、こんな敵国に近い最前線でも横暴が許されるようなことにはならないはず。それも、公爵様と真っ向から争うなんて到底考えられるような話じゃない。
特に周辺を公爵様の息がかかった貴族が固めている以上、物資や人材と言った面でも大きく制限をかけられることになるわけだし。
なんて思っていたんだけど、まだローレンの話には続きがあるようで、
「さらに、その妹君がどうやら最近後宮入りをしたようでして。陛下も大変気に入られていらっしゃるとか。一部に支援する貴族家もあるらしく」
「なるほど。家族も陛下の覚えが良いとなると話が変わってくるわね。しかも後宮かぁ…………」
後宮。それは陛下の妻や妾、そしてその子供が住む場所。
男子禁制で陛下しか男は入れない、華やかな場所。と言う風な言い方もできるけど、あそこはある意味の地獄。
そこで生まれた子供が次の国王になったりするわけだから、他のライバルたちに子を産ませないように、そしてもし生まれてきてもその子供が健康に育たないように。いろいろな陰湿で外道な攻防が繰り広げられる場所となっている。
そんな場所にいてなお陛下のお気に入りになれているという代官の妹は、本当にある意味での天才ではあるんだと思う。
代官が陛下や貴族から相当な支援をもらっていると考えられるのも当然の事ね。
ただ逆に考えるとそこまでの相手だったら今度は公爵様が仲よくしようとするなんてことも考えられるわけだけど、あえて真っ向から対抗する理由としては、
「公爵様、そういえば妹君が後宮入りされていたわね」
「ですね」
「それは対立するのもやむなしと言ったところかしら」
「…………残念ながら」
この周辺でだれがトップになるのかなんていう話以前に、後宮での対立があったとすればこの深刻な対立にも納得がいく。
公爵様としては家の格を保つためにも王家との間に子供は欲しいだろうし、代官としては自分の親族が王族の子を産んだとなれば自分はもっと上に行ける。どちらも引くことができない状況と考えられるわね。
どちらも陛下の子供を狙っている以上、ここでどちらが上と言った雰囲気を作れば後宮にいる関係者に影響が出かねないし。
ただ、そんなの私たちのような無関係な人間からすればはた迷惑な話でしかない。
対立するより手を組むなりして、後宮での協力相手を作らせた方が子供を作るチャンスだって増えるでしょ。
順番とかも気にしているのかもしれないけど、それとこの対立で受けるダメージを考えてから事を起こしてほしいわ。
「これからも嫌な報告が来そうね…………何かいい話はないのかしら」
「では、僭越ながらお嬢様がお喜びになるかもしれない話が1つ」
「え?何?良いニュースがあるの?本当に!?」
対立はまだ始まったばかりでこれからは悪いことの連続、と思っていたところでローレンツが私に何かいいことがあるという雰囲気を出してきた。
やるじゃないローレンツ。これで私の目には(・内通 77)が見え続けているんだから、本当に私の目って使えないわよね。
「それで?良い話って何?」
「例の避難民に作らせていた居住地ですが、基礎部分ではあるものの第一段階が終了したそうです。完全に村、いえ、街を作る基盤が整ったとか」
「…………え?」
嘘でしょ!?それって、内通者をあぶりだすためのものじゃなかったの!?(なお最初に何を目的としていたのかは考えないものとする)
それに、いくら食糧があるとはいえそれ以外が乏しい避難民たちにそれだけやる気力と活力が残っていたとは。
本気で恐ろしくなってきたわね。反乱を起こされないように監視はしっかりやらせておきましょう。
「人員を追加で入れられる?」
「問題ありません。手配しておきます」




