7.だいたい悪い奴がいる
「まずは避難民を一か所に集めるわよ。そこから事情聴取。最低限どこから来たのかくらいは特定させておきなさい」
「かしこまりました。人員はどれくらいを?」
「300人くらい動かせる?今後増えて来るなら、それくらいは慣れさせておいた方が良いはず」
帰宅したら早々に対応を始めることになる。
事情は帰宅前に聞いてたから馬車の中でずっと解決策を考えていたわけだけど、やっぱりすぐにどうにかできるものでもないと思うわ。
現状は情報がそもそも不足しているから、避難民から話を聞いたりして逃げてきた場所とこれからどうしたいのかは把握しておく必要がある。
それでもどうにもならないようだったら、最終手段で全員処分と言う暴挙に出るしかないわね。
かなりの汚名を被ることになるからやりたくはないけど。
「エルグにも声をかけて置いて。ある程度見張らせておかないと、避難民同士でのトラブルが起きかねないわ」
「それもそうですね。対応してもらえるよう指示を出しておきます」
話を聞く人、指示を出し誘導する人、見張っておく人。いろんな人材が必要で、人材豊富とは決して言えない我が家にはつらい状況。
それでも、やって行かないといけない。
まだ人数が決して少なくはないけど、多くてどうにもならないとはなっていないうちに人を鍛える必要があるわ。足りないなら、鍛えて使える一人材を増やすしかないんだもの。
食料などの物資に関しては、幸いなことに今回の戦争で報奨をもらっているからそれを配給すればいい。戦争での活躍への報奨と尋問へのわびが合わさってるからか相当な量をもらえているし、これくらいの人数であれば数年は持たせられる。
もちろんこれから数が増えていくだろうから1年も持たないとなる可能性はあるけど、それでもすぐに物資が足りなくなるということは起きないはず。
「食べ物は問題ないとして、住む場所はどうすべきかしらね」
「少しずつ分けて近隣の村などに住まわせますか?とはいっても、全員を住まわせることは不可能でしょうが」
「そうね。こっちに知り合いがいるというのならともかくそうでない人間を村に住ませるのは問題があると思うわ。まとめて新しくどこかに住み着かせる方が良いでしょう。どこか開拓させてそこに新しく村か町を作らせたらどうかしら?」
「そのようなことが可能なのでしょうか?」
「さぁ?分からないわ。でも、やらないと住む場所がないとなればやるしかないでしょ。村や町がもし無理でも、住居の建築は成功するんじゃないかしら?」
相談相手のローレンと話し、丁度野生動物が邪魔をしてるとされる地点の近くにある森があることを確認する。そんな場所があるのならば避難民に開拓させ森を破壊し、そうした野生動物が問題になってる地点で姿を見せにくくなるようにしてしまおうと提案する。
当然ながら避難民に被害が出るとは思うけど、住むところがなくここから追い出されるよりはマシよね?
「そうなると、監視の人数を増やした方がよさそうですね。調整いたします」
「悪いわね。頼むわ」
ここまでで大まかな計画はまとまった。
後は実際に実行してみて、どこまで想定通りに進むかを見ておくだけ。
それでもこちらにはいろいろと情報が入ってくるわけで、まず最初に私が受けた報告は避難民たちの出身地。
聞けばわかることだからその情報が集まることにそう時間はかからなかったけど、それで問題が解決するというわけでもない。
ただ問題解決の糸口程度にはできると私は予想してたわけで…………残念なことに私の予想に反する事柄が発生し頭を抱えることとなった。
「全員出身地は元伯爵領。そして現国有地」
「裏切りが確認された以上血縁者には任せられないということで国が管理することになったようですが、前伯爵の置き土産にやられたというわけですね」
問題の根本的な原因は、例の裏切っていた伯爵。
どうやら裏切りがバレた時のための嫌がらせを用意していたみたいで、それがこの大量の避難民につながっているらしい。
まず最初に、伯爵は自領に大量の民を抱えていた。
これは国境付近だから人材が必要だということで戦闘民非戦闘民関係なく大量に呼び込んだらしい。もちろんこの辺りには国の補助金なども出ていたみたい。ただその補助金の分にはとどまらず、裏切るつもりだから短期的な無理をしても問題はないということでかなりの金額を動かして人を集めたみたい。
どこにだって生活困窮者はいるからお金をちらつかせればすぐに人は集まってきたみたいね。
ここからは推測にしかならないけど、そうして集めた人たちは何かあって国から兵を向けられた時などに盾にするつもりだったのではないかと思われる。
くわえて、それもできない状況で国を出なければならなくなった時などに、今回のように伯爵領内だけで民を抱えきれなくなって他領に流出してこちらへ被害を出すということまで考えていたのではないかと予想されるわ。
つまり今の状況は、ある意味元伯爵の思い通りに進んでいると言ってもいいのかもしれない。
「国から派遣されてきた代官は当然ながらそうした人たちを賄いきれないと判断して追い出すようにしてしまった、と」
「これでは原因となる部分に賠償を求めることもできませんね。国が相手では誰も文句など言えませんよ」
今回自体が余計に悪化しているのは、問題の元伯爵領を国が管理してしまっていること、これのせいでそこから人が出てきても文句も言いづらいというわけ。
もし文句を言えば国に文句を言ったということで最悪不敬罪などで処分されかねない。
そうでなくても、悪いのは伯爵だからみんなで乗り越える必要があるなんてことを言われて適当に流されるだけ。
何にしても、問題を起こした土地の管理者から賠償などを求めて解決しようというのは無理がある。
となるとやはり、私たちが求められるのはそれぞれの領地での独自の解決。
我が家はまだ戦後の褒章などのお陰でしばらくは持たせられるけど、下手をすればいくつかの男爵家とかは数か月もしないうちにつぶれるんじゃないかしら?
「また次の戦争がありそうだっていうのに。国って本当に…………」
「お嬢様。お気持ちは分かりますが国のことを悪く言うのはいけません」
「分かってるわよ。そもそも悪くなんて一言も言ってないだけじゃない。ローレンがそういう風に言いそうだって考えただけでしょ?どちらかと言えば、そういう言葉が出てきそうだと予想したローレンの方が不敬なんじゃないかしら?」
「おや。これは一本取られましたね」
口ではふざけたことを言うけど、私もローレンも表情がかなりひどいことになってる。
国はこっちの方面はもういらないと思っているのかしら?早めに手を打たないと確実にマズいことになると思うのだけど。最悪敵国から攻められ前に自滅することになるわよ。
「もしこっちでの避難民の対応がものすごくうまくいったなら、厳しい状況の男爵家くらいは助けてあげるとしましょうか」
「ええ。素晴らしいお考えかと。上手くいけば、ですけどね」
周辺の領地はまとめてマズい状況にある。これは間違いのない事。
と言った感じで基本的な情報収集で分かったこととそれによる私たちの苦悩は終わり。
ただ残念ながら、これで私の最初に立てた計画は第一段階が終わっただけに過ぎない。まだまだ受ける報告ややることは合って、
「森林の開拓ですが、一部は上手くいっているようです」
「へぇ。良かったじゃない。住む場所の問題も解決できるかもしれないわね」
「はい。そしてお嬢様の計悪通り、内通者と思われるものを数名捕らえることに成功しました。現在全員拷もn、ではなく尋問中です」
「うん……………………うん?」




