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1.私の特別

鑑定、と言うものを知っているかしら?


査定をするとかそういう話ではなく、それは物語に出てくるような鑑定の話。

人の能力や個人情報を見ることができて、それによって才能のある人を見つけ出したり敵の弱点を見抜いたりと言うことができる。場合によっては、人だけでなく物にも通用するという噂もある。

私が知る限り、この国の初代国王陛下や遠くの国の初代皇帝などもこの能力を持っていたと言われている能力。

とても便利な能力で、人の上に立つなら誰だって欲しい能力。


さて、そんな鑑定のことを思う私には、他人には見えないものが見えている。

小さい時にはそれが見えることが普通だと思っていたけど、絵本で話を聞いたり文字が読めるようになって来たりしたところで私はこれが鑑定なのではないかと気がついた。

その時はとてもうれしくて、すぐにお父様に報告しようとしたのだけどやめてしまった。

なぜなら、


「この見えるもの、適当なことしか書かないわね」


「ん?お嬢様、どうかされましたか?」


「いえ、何でもないわ。それでは具体的な子爵としての仕事内容について教えてもらおうかしら」


「かしこまりました」


私に軽く頭を下げるローレン。当然彼にもまた、私のその昔から見えているものが適用されている。

彼にの近くで浮かび上がる物は、



・内通 77



これだ。これだけだ。

私には、これだけしか見えない。鑑定は名前が見えたり性別が見えたり種族が見えたり持っている様々な能力が見えたり、とするはずだけど、私が見えるものは単語1つと数字1つだけ。

恐らく1番高い能力とその能力の凄さを数字で示してくれているんだと思う。得意なことなんて大抵目立つんだから、あんまりこれだけだと役に立たないと思う。


ただ、それだけじゃないんだよ。なんとこの情報、信用できない!

実をいうとこのローレンは何代も前から一族でこの家に仕えてくれていて、内通なんてあまりにも考えにくい事。だいたい、子爵家という貴族の家であるとはいえそこまで貴族の中では上の方にいるわけでもないし、スパイなんてする意味がない。


しかし、これだけだったらまだ疑えたかもしれない。

私がこの鑑定もどきを信用できないと幼いながらに判断した際の1番の理由は、


「お嬢~!聞いたぞ?子爵になったんだってな?」


「げっ。エルグ。耳が早いわね」


「当たり前だろ?俺はここの騎士団長だぞ」


「騎士団って言っても、ほとんどが衛兵でしょ?そんな立派な物じゃないじゃない」


「それでも軍事のトップなのは変わりないだろ?細かいこと気にすんなよ」


この、いかにも私を下に観てそうな、相手を敬うなんて心が微塵も感じられない男。

自称騎士団長にして、我が家の暴力面でのトップ、エルグ・ニパ。

顔はそれなりで体つきも上に立つ人間であるにもかかわらずしっかりしてる。領地の民にも基本的に人気があって、私ともそれなりに交流がある。

けど、私の事を馬鹿にしたりからかったりしてくるから嫌い。


そんなエルグを私が見ると、



・忠誠 88



こんなものが見える。

絶対嘘。間違いなく嘘。大地がひっくり返って本が反対から読めるようになっても嘘。こんな男に忠誠心なんてあるわけがない。

だから私は、この私が見えているものは嘘をついていると確信した。期待していただけに、物語の主人公のようにはなれないのだと分かって落ち込んだわ。もし天が私にこの能力を持たせたのなら、邪魔過ぎるから全力でぶん殴りたいわね。


と、思ったのが最初の頃。

でもその数年後、私の見えるものがうそをつくのなら使えるのかと思ったの。

だって、見える情報が嘘だというのなら、相手の苦手なことが分かるということだから。才能を見出すことはできなくても、相手の弱みは見つけられるんだから悪い事ばかりじゃない。


そう思って嫌がらせをしたんだけど、


「で?何か用?今度の戦争の事でも話し合いたいわけ?」


「おお。それもいいけど、今回はアブトから連絡があったからまずそれを伝えようと思ってな」


「子爵就任の大事な時に伝える事なの?」


アブト。

元々我が家の騎士、つまりエルグの元部下だったことで私が嵌めようとした人。エルグと仲が良く、丁度騎士をやめて別の職に就こうか悩んでいるという話を聞いたから仕返しを兼ねて、



・歌唱 76



というものを見た私はアドバイスをした。吟遊詩人をやってみなよと。

当然私はこの見えたものでアブトが失敗することを確信していた。苦手なことが歌唱なんだから、吟遊詩人なんてできるわけがないよね?

でも、そんな予想に反して、


「せっかくアブトが王都まで呼ばれて感謝の言葉を述べてたのに、それをどうでもいいとか言うつもりか?」


「そうは言わないけど、今じゃなくていいでしょ?もうちょっと落ち着いてからそういう話はしなさいよ」


滅茶苦茶大成功した。王都に呼ばれたというのは初めて聞いたけど、それに驚かないくらいには色々なところで呼び出しをされるくらいには成功した。

逆に言えば、私は失敗したわけね。せっかく嵌めて笑うつもりだったというのに上手くいかなかったのよ。アブトからは吟遊詩人を提案したことでとても感謝されてるみたいだから良い事ではあるんだけどね?おかげでいろんなところで我が領地の事を紹介してくれたりしてて子爵家にしてはいろんなところとつながりを持てているし。


と、ここまの結果を考えると分かることがある。それは私の見えるものは必ずしも嘘ではないということ。

そして結論として言えることはただ1つ!


この私の見えるもの、何にも使えない!!ちくしょう!!!


ただ目に映る余計で邪魔な物。それが私の見えるものだった。

本当か嘘かも分からない適当な情報なんて、使えるわけがない。一瞬見える数値が高いとそれに目線が行っちゃったりするから邪魔なだけなんだよね。本当に困る。


「そういえば、一応徴兵のめどは付けて置いたけど確認するか?」


「徴兵のめど?もうそんなものが立てられたの?随分早いじゃない。確認するわ」


もしかしたらクソ親父は私のこの見えているものに期待をしたのかもしれない。

私は誰にも伝えてはいないんだけど、見えている物を特別なものと認識した時に色々と試してたからその時に察知されたのかもしれないわね。

だとすると、かなりマズい。私の見えるものが適当なことしか見せないなんてことはさすがに予想していないだろうし、私が物語の主人公たちのように結果を残すような存在だと思われていたのだとしたら困る。本当に困る。

その想定で今までの領地の運営をしていたのだとしたら、現実との落差がひどすぎて壊滅的な被害を受けかねないわ。


「うぅ。頭が痛いわね」


「あ、あれ!?そんなに徴兵の状況が悪かったか!?どちらかと言うと良い結果だと思ったんだけどな………徴兵できる人数もかなり多いし。みんな健康そうだし」


「逆に、それがマズいのかもしれません。今回の急遽の代替わりは徴兵される人数を減らすことも目的の1つだと考えられますので、数が多いことも質が良い事も今回わざわざことを起こした理由を弱めてしまいます」


「うげぇ。そうだったのか?その辺の詳しい内情は説明してもらえないと分からないんだけど…………仕方ない。少し見直しておく」


「お願いします」


私が頭を抱えている間にエルグとローレンが勝手に話を進めている。

2人は規定路線に持っていこうとしているみたいで、


「…………いえ。その必要はないわ。変更せず、このまま行くわよ」

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