14.消えた敵
中立派なんてものの共同設立者になってしまったから、その立場を明確にして問題が起きないようにしてついでに利益が得られるようにしていく。
伯爵はいなくなったから対応してくれないだけに、いろんなものの対応を私がすることになってかなり大変。でも、戦場での動きの話なんかもできたから明日私が生き残る確率を上げることにもつながっていると思うわ。
明日も戦いがあるという事で幸い夜遅くまで対応するという事にもならず、キャパオーバーする前に話も終わらせることができる。
自分より上の爵位の人が派閥に入ってくるという事もあって悩むことは多いけど、今日明確に対応を決めるという必要がないのも気が楽でいいわね。
ちなみに、私が対応している相手は貴族がほんとだけど、戦場に送り出されている人が必ずしも当主と言うわけではない。
それなりの数の家が縁者だったりを送り込んできているんだけど、それでもその人たちが家を代表するようにして派閥の決定を宣言したりしていることにもそれなりに驚いている。本当はそんなことやったらだめだと思うんだけど、この流れに乗り遅れることをマズいと感じたんでしょうね。
当主との間の齟齬が生まれて問題になったりしないと良いんだけど。
「お嬢、大変そうだな」
「そうね。これが政治に関わらないことならあんたに全部押し付けたいところだけど、そうもいかないのが悲しいわ」
「おいおい。勘弁してくれよ。自分の仕事くらい自分でやってくれ」
「仕事を部下に割り振るのが上司の勤めよ」
「そんなわけないだろ。割り振っていい仕事とダメな仕事があるだろうが」
非情に酌だけど、今はこのエルグとする軽口のたたき合いすら心安らぐものに感じられてしまう。こいつに安心させられるなんてものすごくむかつくわね。
でもその不満を態度には出さず、頭から追い出すようにしてリラックスをする。そして明日のため、早く準備ができるようにとまだ戦った後の興奮が収まらない身体を無理矢理沈めてまぶたを閉じる…………
「…………ぁぁ!」
「どうなっている!?」
「そんなわけがあるか!!」
「…………んぅ~?うるさいわね」
そこから私が目を覚ましたのはまだ少しくらい時間。
なんだか周囲が騒がしくて、こんな時間に起きるつもりなんてなかったというのに目が覚めてしまった。まだ寝ている者も多い時間でしょうし私の起きるような者も多く出てしまうと思うんだけど、どうするのかしら?
焦り具合などから考えれば敵が攻めてきたというわけでもなさそうだし、何が起きているのかまだつかめないわね。
「エルグ。いる?」
「おお。いるぞ。お嬢にしては随分と早く起きたな」
「さすがにこんなにうるさいと寝てられないわよ。何が起きたか把握できてる?」
丁度良い事にエルグは起きていたみたい。
その声と格好からかなり前にもう起きていたことが読み取れたから、事情を知っているか聞いてみる。
するとすべてはまだ聞けていないという前置きをした後に、
「敵が消えたらしい」
「消えた?というと、本陣を覆うように透明化の魔法でも使ったの?」
「いや、具体的にどうやったのかは分からん。ただ、それもあり得る話だとは思うぞ。なんといったって、敵が本陣ごと丸ッといなくなっちまったみたいだからな」
「えぇ?冗談のつもりだったんだけど」
敵本陣の消滅。
それは確かに本当だとすれば衝撃的なニュースだと思う。
ここで言う敵の本陣は、この夜の間に敵がいたはずの場所の事。
戦場からは少し後ろの方に物資などを集めている場所があって、そこで夜は休息をしていたはずだというわけ。
だというのに、そこから敵が消えたとなると私たちはここからの行動に悩まなければならなくなる。
「敵の策略の一環だと考えると、全く読めなくて困るわね」
「実は夜の間に移動して、本国の侵攻に取り掛かってるとかだったら頭を抱えるしかないぞ」
「そうねぇ。もし力づくで国境を突破してくるつもりなら連絡が来ていてもおかしくないけど、こっちに内通者がいてその手引きで内部に侵入したとかいう場合には相当私たちが後手に回ることになるわ」
嫌な考えがいくつも浮かんでくる。
ただ何にしても、あまりにも情報が足りていない。
という事で、軽く身支度をして情報共有をしてくれそうな国軍の人のところまで行く。
すでにそこには他の貴族も集まっていて、
「おお。子爵!おはようございます!」
「事情は聴いておきましたので、現在分かっていることはお伝えできますよ」
「少しお耳汚しを」
そのほとんどが私に群がり、情報提供を行なってくる。
個人的にはまた聞きみたいになるから直接軍人さんから話は聞きたいんだけど、向こうは向こうで対応を考える必要があるだろうし煩わせてもいけないかと思いおとなしく周囲から話を聞くことにする。
内容としてはほとんど私がエルグから聞いていたものと変わらず、敵本陣がいなくなったという事で間違いはないらしい。
しかも実際数人はその陣地となっていた場所に侵入までしたらしいんだけど結局何もなく、その周囲には敵がいないという事がハッキリしたらしい。
くわえて少し無謀にも敵本国の方まで探りに行ったものもいるみたいで、そうした者達からの情報によると、
「敵が国に戻った、ですか」
「そうなのです!おそらく伯爵と子爵の力を前にして恐れをなしたのでしょう!」
「あの奇術公が恐れをなすとは、さすがですな!!」
「このまま敵国に攻め込んでも勝ててしまえそうですな~!ハハハッ!!」
ブラフかもしれないけど、敵は自国へと戻ってしまったらしい。
理由は当然ながら不明。
現在その原因を探るために調査を頑張っているらしい。
そうして私が説明を受けているうちに他の貴族も続々と集まってきて、公爵様も代官も到着し話を聞き始める。
そして最後の最後。
全ての指揮権を持つ人間が一堂に会したというところで満を持して登場したのが、
「いや~。もしかして集まることが決まってたのかな?遅れてしまって申し訳ないね!」
「は、伯爵様!!」
「どうぞこちらに」
目立ちたがり屋の伯爵。
最後に来た辺り、おそらく狙ってやったわね。集まる予定など決まってなかったという事でいくらでも言い訳はできるけど、これは確信犯で間違いない。
公爵様や代官の後から来て、自分が主役だとでもいうような雰囲気を作りたかったんでしょうね。実際それは成功していて、視線のほとんどを伯爵は集めていた。
しかも、いやらしいことに本当に主役みたいなことをし始めて、
「そうそう。まず報告しなくちゃいけないことがあってね。どうやら昨日盗賊討伐のための騎士団が盗賊を追い立ててたら、丁度敵の本陣の方に逃げたらしいんだよ!結果として賊と騎士が敵の本陣の方にあった物資とかを奪ったり破壊したりすることになったみたいだから、何か影響が出てるんじゃないかってさっき報告を受けていたんだよね!何か変な影響とか出てないかい?」
伯爵の話によると、例の伯爵主導で新しく創設していた盗賊討伐用の騎士団が追い立てた結果盗賊がちょうど敵の本陣に昨日の昼、つまり戦闘中に逃げて行っていたらしいの。
結果として戦闘中だったからそこまで多くの敵がいたわけではなく、盗賊はかなりの犠牲を出しながらも敵の物資を奪ったらしい。
しかもその盗賊を追っていた騎士団がそこに到着した結果、放置するわけにもいかず残っていた敵の物資などに火を放ったりしてから逃げたんだとか。
これを聞いてざわつく周囲。
当然これの影響がもろに出た結果が今回の敵本陣消滅だろうし、あまりにも伯爵の功績が大きすぎるの(もちろん伯爵直属の組織が行なったことではないけど、それでも伯爵が名実ともにトップにはなっている上に今回の指示を出しているからそこの功績はほとんど伯爵のものとなる)。
ただこれをすべて伯爵の功績とすると当然ながら責任もすべて伯爵のものという事になるからなのかは知らないけど、
「盗賊を向こうに追い立てて向こうに処理してもらおうという計画は少し前にパール子爵から提案してもらったものでね。今回はそれを参考にして騎士団を使わせてもらったよ。もし何かいいことが起きているのなら、私だけではなく子爵のお陰でもあるんだよ」
また私を巻き込みやがったぁぁぁ!!!!
ただ、今回は本当に私が提案しているから嘘だとは言えない!!!




