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12.手のひらの上じゃん

「そこ!出過ぎない!しっかり陣形を守れ!!」


「盾隊!しっかりと指揮官を守っていて!!」


「焦るな!狙いを絞って撃て!!」


開戦から数分。

予想外なことに敵が少しこちらの右翼側に偏っているという状況になったりはしたけど、おおむね一般的な戦争の範疇から外れない程度の争いを繰り広げさせてもらっている。

ただ、私たちは大忙し。

確実にわざとなんだけど私たちの相手は絶妙に弱くて、こちら側の進撃が続いているの。


これが絶妙に嫌らしく、調子に乗って突出しそうな貴族がかなりの頻度で出てきている。

それらを伯爵様がどうにか抑え込んでまとめ上げてるけど、いつ崩れてもおかしくないというくらいには勢いづいてしまっている。


「ハハハッ!これはまさしく敵の掌の上と言ったところだろうね!派閥の事から配置まで、しっかりと理解してるようじゃないか!」


「内部の分裂を狙って理うんでしょうね。この後、公爵様か代官の首を狙い安くすると言ったところが分かりやすい狙いでしょうか」


そうした面倒なことになる最中、私は伯爵様と軽く敵の狙いについて話し合う。

今回私たちが進撃で来ているのは間違いなくこちらの派閥争いを利用しようとした結果だと思う。

まだどちらの派閥にもついていない貴族を活躍させ、逆に派閥にいる貴族たちを苦戦させることで派閥の貴族たちの不満を試させるつもりなんだと予想中。

その結果公爵様や代官の周囲を固める見方を減らし、前回の戦場のよう狙った相手をつぶしやすくする。

そうしたことが狙いだという風に予想することもできるわ。


もちろんそれ以外にも派閥を引き留め、さらに手柄を立てた私たちを強引に引き込もうと動く可能性も考えているかもしれない。

それならそれで私たちの方に不満が溜まるから、調略が通じやすくなるとか考えるんじゃないかしら?

何にしても厄介極まりない。

1番厄介なことが、


「ここで手を抜けないというのがツラいのよねぇ」


「馬鹿言っちゃいけないぞ、お嬢。こんな手柄を立てる絶好のチャンスを逃すわけにはいかないだろ」


「そうね。ここで私たちが進まないと、余計に公爵様や代官も辛くなるでしょうし」


派閥争いに悪影響を与えることを考えて私たちがもし動きを止めたら、それはそれで向こうの軍にとって有利な状況を作ることにしかならない。

実際にここで手柄を立てられている、つまり敵将の数を減らせていることは間違いないんだから、そのチャンスをみすみす逃すなんてしたらそうしない場合より敵は強く成ってしまう。


それならまだここで私たちが活躍して、そのあと解決のための手段を模索した方が良いのではないかと思わせてくるあたりが厄介なの。

とはいっても、そもそも私や伯爵など一部の貴族しかこれが敵の策略だなんてことは思ってないみたいだけど。

ついでに他の貴族が気づいていなさそうなことで言えば、短期的なモノでも気になる部分があって、


「このままだと敵の内部に入りそうですけど、そこはどうしますか?」


「うぅん。私としては深入りは避けたいけど、内部に入れば確実に首が取れそうなんだよね」


「そうですね。明らかに餌をぶら下げられているような気がします」


伯爵様に聞いてみたのは、これ以上進んだ場合敵軍の内部に食い込む形になることをどうするのかという事。

今まではあくまでも端の方から攻めていく形だったから、真正面だけで戦っていられた。

でも、敵の内部に入り込むと私たちの前線が広がってしまう。そうなると、今まで以上に管理が困難になってしまう。

さらに言えば入り込んだ後逃げ道をふさがれて袋のネズミに、なんていう事すらあり得てしまうことが恐ろしいところ。


「ここで私たちをつぶしたら派閥争いには使えなくなるけど、それの比じゃないくらいの戦果は手に入るわけよね。今まで油断させていたと言われたらそれはそれで納得できるし、下手に手を出したくないわね」


「とはいっても、他の貴族様は止まる気がなさそうだぞ?」


「そうなのよねぇ」


周囲はまだまだ手柄が立てられると突っ込んでいく気満々。

もし私が止めようとすればそれは歩調を乱す余計なことになりかねない。

できれば伯爵様にここは指示を出し欲しいところだし、自分の命は守りたいだろう伯爵様に安全策を伝えておく。

そうすると向こうもすぐに頷いてくれて、


「まずは逃げた敵将を討つぞ!戻らせるな!!」


「少し調節が必要ですな!」

「お前たち、少し速度を落とせ!」

「左に寄ってくれ!陣形が崩れるぞ!!」


あえて伯爵様の兵が敵将を1人取り逃す。

ついでに弓矢などの脅しでその逃げる先を誘導し、私たちにそれを追いかけるよう伯爵様は支持する。

当然ながら伯爵様が指示を出し、更に手柄が逃げそうというのは心に感じるものがあるようで、周囲もそれに従って敵の内部ではなく外側をなぞるようにして動くように行動を変更。


見えていた内部の敵将と言う手柄は逃したけど、代わりに私たちは安全を手に入れた。

さらに言えば、内部ではなく後方に来ることができたというのも大きい。

内部よりも後方の方が余計に敵を強く感じるようになるわけで、


「味方から離れすぎたのでは?」

「少し進む速度を落としましょうか」

「少し熱くなりすぎていましたな」

「あそこに見える旗、確か奇術公の配下のものでは?少し離れた方がよさそうですな」


なんて遠くまで見える敵の背中を見て熱を冷ますことになる。

一般的な武将であれば、ここでおとなしく一度撤退を選んですぐに味方の近くで戦うようにしたでしょう。

でも、今回は少し違う。


目立ちたがりの伯爵は、さすがに自分がここで目立つつもりはない代わりに目立っている自分の配下に声を出させて、


「敵の攻撃に警戒しながら下がるぞぉぉ!!余計な被害を出すなぁぁ!!」


なんて言葉を敵の方まで届かせる。

これは実をいうと、味方にかけている言葉のように見せかけて敵を誘うためのもの。

こちらが後退をする、さらに被害を受けるとマズいのだという風に相手に思わせることで手を出しやすくさせるというわけね。

これで向こうの兵を一部引きつけられるし、功を焦った敵のの指揮官だって運が良ければ仕留められるかもしれない。


さすが伯爵と言ったところね。

なんといったって伯爵には、



・足止め 71



なんて文字が一緒にあるんだから。

もちろんこんなものあてにならないけど、実際に敵を引きつけるという行為は敵が味方に攻撃をするタイミングを遅らせる足止めに近いことをしていることになるんじゃないかしら?


「クククッ!これで私の武功もかなりのものになる!功績1位として報奨も貰えるし目立てるなんてとてもいいじゃないか!」


「伯爵様。お喜びになる気持ちは分かりますが、悪目立ちして敵に狙われないように気をつけてくださいね?」


「分かっているとも!ただ、我が家の盾持ちは優秀だからね!度を過ぎた危ないことをしない限り、盾持ちがやられていない間なら安心して大丈夫さ!フハハハッ!!」


かなり消耗が激しいことも事実だし、遠くの方に見える戦いの様子から考えてもそろそろ一旦今日の戦いは終わりそう。この追ってくる敵との戦いが終わればそれで休憩となるんじゃないかしら?

とは言っても報告によると向こうはかなりの量の物資を、特に食料を持ってきているらしいから明日も戦争が続くことは予想される。

全く気は抜けないわね。


「位置取りによっては撤退する敵の本陣の中核と戦うこともできそうですが」


「絶対やらないね。そんな危ないことをするわけないだろう?」


「伯爵様ならそうおっしゃると思っていました」

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― 新着の感想 ―
奇術公さーん!? 本隊の方にばかり注目してますけど、この二人の方がささっと仕留めておかないと絶対後々苦戦させてくるタイプの名将ですよお!?
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