11.目立ってくれ!!
ここで1つ、私がどうして伯爵の持ってくる物資と避難民を盗賊に襲わせるように調整したのかと言うことを説明しておきましょうか。いくらなんでも、貸しを返されることが嫌だからといって襲わせるなんてやり過ぎだし、これにはしっかりした理由があったのよ。
その理由は至極単純、狙った伯爵は目立ちたがりだから!
実をいうと、初めてあいさつした時から「私を目立たせてほしい!」って頼まれていたのよね。それこそ、私が私兵を率いて伯爵家とバチバチに対立して血みどろの争いを繰り広げても、それで目立てるなら構わないと言ってくるくらいには目立ちたがり屋。もちろん、自分の命を狙うのはやめてほしいとは言われたけど。
そういうこともあって、私は伯爵家を狙わせてもらった。
どうやら向こうもこちらがそうなるように仕向けたと言うことは理解しているみたいだったけど、避難民以外の被害が少ないうえに周囲からも注目が集まって公爵様からも代官様からもかなりの支援をもらったということで逆に感謝する手紙が届いている。
対立とまではいかずとも関係が悪化したりしないか心配していたんだけど、どうやらその必要はなかったらしい。
では、なぜそんな話を今したのかと言えば、
「伯爵様、絶対この新騎士団の設立は話題になりたいからやってるわよね」
「でしょうね。さらに、それを宣言することで話題になるだけでなく、その後本当に設立が成功した場合には騎士団のトップに自分がなることなどによって自分が有力者だと示し、多くの者達に認知されるだろうと考えているのではないかと」
「あの人はその辺に関しては筋金入りね。優秀な人であることも間違いはないはずなんだけど」
決して伯約様は能力が低いわけではない。領地もそれなりに潤っているみたいで、運営能力はどちらかと言えば高い方。さらには自分の命はあまり危険にさらしたくないようで、無謀と言えるようなことはあまりしない。能力もそこそこで安定感もある、派閥に来てもらえたら確実に強化されるだろう貴族だと公爵様などからは認識されているはず。
ただ、非常に目立ちたがり。
ここだけが難点。
たぶん、派閥に入ったりしたら会議などの議長をやらせろとか言いだすと思うわ。ついでに、議長だけど自分の意見を言いまくってついでに他の人の意見にも全て自分の意見を上乗せしたりとかするタイプ。
それが悪い事かどうかは別の話として、公爵様たちにとってみれば自分よりもしゃしゃり出ていこうとする人間を面倒に思うということも確かだとは思うわ。
そんな都合のいい時にだけ使うのは良いけど常に近くには置いておきたくないタイプの伯爵が今回目立つために新しい話を出してきた。
伯爵様としてはここで周囲が乗ってくれば自分がもっと目立てるという風には思っているはず。ただ、私たちからすれば貴重な戦える人材を周辺の盗賊退治専門として雇われることは困る。直近で戦争が起こりそうだっているのにそこで人出が減るなんて許していい事ではないの。
だから私は、
「公爵様と代官がかなりの額を出すと期待して、私たちは少額で収めておきましょうか。代わりに、もっと目立てる手立てでも意見書として提案しておけば向こうは満足するでしょう」
「それでよろしいかと。しかし、もっと目立つための手立てと言うものに当てはあるのですか?」
「盗賊がもし投降して情報を洗いざらい吐き、そのうえでその新しく設立する騎士団へ加入するのであれば罪を許してもいいとか言えば盗賊内で伯爵の知名度が上がるとでも言っておけばいいでしょ。それが実現すれば実際に盗賊にも波紋が広がるだろうし、投降する人間が続出するはずよ」
求められている金額よりかなり少なくした資金を提供する。代わりに、伯爵が喜びそうな提案をする手紙を書いておけばいいはず。ローレンに伝えたもの以外にも細かい提案を色々と追加しておきましょう。
個人的にはそうした提案がどう受け取られるのか気になったんだけど、その創設が正式に決定されたと言う報告が来た辺りでもう情報を追っているだけと言うわけにはいかなくなってしまった。
その原因は、以前から予定していたように戦争。
「ギリギリボーナスと休暇が間に合ってよかったわね」
「そうだな。お嬢がまた無茶なことをしなくて良かった」
戦闘の予定地に到着した私が胸をなでおろしていると、ついてきた戦場での指揮を実際にとることになるエルグが煽ってくる。
私がいつ無茶なことをしたって言うのかしら?
できたのならそれは無茶とは言わないと思うんだけど。
文句を言いたいところではあるけど、今はそれを口にせず別の事を考えることになる。
今回の戦争は想定していたため周囲もそれなりに覚悟を決めてきていて、たとえまた奇術公が出てきたとしても前回のようなひどい事にはならなさそう。
ただ、向こうはそんなことを分かったうえで計画を立てているだろうから困るのよね。
向こうにもこちらの派閥争いなどは伝わっているでしょうし、そうしたことを理解したうえで分断工作などを仕掛けてくるのではないかと言う予想を今のところはしているわ。
こちらの迎え撃つうえでの陣形は、国からの正規軍が中央。そして同じく国所属である代官が指揮する兵がその周囲を固めている。
そして、前回裏切っていた伯爵が務めていた右翼を今回は公爵が固めることになる。
どうやら今回は総大将を公爵が務めるというわけではないみたい。
変にそうして権利を与えると派閥争いによって無駄に被害を出しかねないという国としての判断ではないかと思うわ。
ちなみに、私は左翼の一番端の方に居たりする。
私も含めて、どちらの派閥にも参加していないような日和見をしている貴族はこっちに追いやられているみたいよ。
「おかげでなじみの深い貴族家の人たちが多いし、連携もとれるんだけどね」
「ただ、こっちの方にはあんまり有名な兵がいないことが問題なんだよなぁ。伯爵様のところには良くも悪くも有名な奴らがいるけど、逆に言えばそれくらいだし」
例の目立ちたがりの伯爵様もこっちの方に来ている。どうやら、まだどちらの派閥につくというのも決めきれていなかったみたいね。
恐らくどちらの派閥も伯爵様の支援のために力を強く使っているみたいだから、まだどちらが上と言うことにもなっていないんじゃないかしら?
お陰で、周辺の指揮は伯爵様がまとめて取ることになるんじゃないかと予想されるわ。
目立ちたがりだから変なことをされそうだけど、少し前にも述べたように自分の命を危険にさらすことは避けるタイプだから意外と安心して良いと思うわ。(ただし自分の命がかからないように私たちだけを突撃させるという選択肢がないとは言ってない)
「子爵様。御恩がありますので、今回は協力させていただきますぞ」
「ここで返そうとは思いませんが、良ければご一緒に戦場をかけさせていただければ」
「子爵は此度の戦い、どう動くつもりなのかね?」
「あら。皆様ご協力いただけるのかしら?でしたら、今のうちに協力して動くための体制づくりなどをしておきましょうか。組織だって協力できるというのはこちらも非常にありがたいわ」
伯爵は別として、私に恩を感じてくれている貴族は今回の戦場でかなり深く連携ができそう。
個人的には戦場の端の方だし軽く矢の打ち合いでもして終われたらそれで良いかと思っていたけど、今回はかなり大規模に動けるかもしれないわね。
「フハハハハッ!それにはもちろん私も混ぜてもらえるのだろうね、子爵!!」
「あ、あらぁ。伯爵様。もちろん私は歓迎いたしますよ」
なお、別としておくはずだった伯爵は自分からやってきて当たり前のように参加してきたわ。伯爵の兵はかなり癖が強くて連携面に影響が出ていたけど、逆に本番でその影響が強く出て混乱することになるよりはましだからヨシとしておきましょう。
ついでに、伯爵様から私が手紙で送った騎士団に関する提案のお礼も言われたわ。
結構本気で感謝していそうだったし、ノリノリで計画をすでに進めていたりするんじゃないかしら?
戦場から帰ったら大ニュースが流れた居たなんてことになりそうで怖いわね。




