9.足りないなら増やせばいいじゃない
避難民が化け物過ぎる。
どうして危険地帯に街を作る基盤を整えられるのよ!ふざけてんじゃないの!?
逆になんでそれだけのことができるのに避難民になってるのよ!どう考えたって貴族たちが抱え込みたい人材でしょうが!本当に頭が痛くなるわ。
いや、頭が痛くなるだけじゃすまない。
前から警戒してたけど、反乱とか起こされたら終わる。こいつらをひとまとまりにさせておくととんでもないことになりかねない。
早急に手を打たなければ!
「ローレン。都市計画を進めるわよ。街を作るなら、しっかりとした準備をしないと」
「はい。もちろんご協力いたしますが、具体的にはどのようなことを?」
「できる事、犯罪歴、持ってきている資金、身元が確かめられるかなどで避難民を分けて、それぞれ区分した土地に住まわせるわ。さらにそれぞれの区分以外とは関わりが最小限になるようにしましょう」
「は、はぁ。分かりました」
補佐役のローレンは私の真意が分からないようで不思議な顔をしながら頷く。
ただ、これは必要なことなのよ。所得など何かしらの要因によって区別して階級のようなものを作っておくことで、避難民に優劣をつけるの!そうすれば、避難民が一丸となるということが難しくなるはず!
更には区別した後にお互いの交流をなくすことによって、余計に不信感を煽る。特に1番下の方の反乱を起こしやすい1番不満が溜まる連中は、私よりも先に上の階級に行った避難民の方を恨むはず。
そうなれば、私に刃が届く可能性を極限まで減らせる。
完璧なプランじゃないかしら?
区分ごとに分けて置いて交流を制限しておけば、物資などの移動も管理できる。もし反乱を起こそうと武器の類を大量に購入しようとしても、こっちはそれをすぐに察知することだってできるんだから。
察知できるなら潰すのだってそう難しくはないはずよ。
「しかし、そうなりますと区分上優秀で資金もあって身元も保証される人間と言うのは確実に少なくなってしまうと思うのですが。他の部分との交流を最小限にした場合、生活の質が逆に下がってしまうと思われますよ?」
「そう?なら、母数を増やせばいいんじゃないかしら?少し前に、うまくいったなら他の領地から避難民を受け入れてもいいという話はしてたでしょ?」
「なるほど。確かに他からも受け入れたなら人数は増やせそうですね…………今後増えていったときにどのような形で街を大きくしていくかと言うことは慎重に考えなければいけなさそうですが、そこさえ万全にしておけばどうにかなりそうですね」
区別をして不満をためるだけでなく、私はさらなる一手を打つ。
それこそが、外からの人間を入れるということ。
基盤を作ったという避難民たちは、もしかすると区別をつけただけではまだ危機を乗り越えたという仲間意識を拭い去ることはできないかもしれない。
そこで私は全くその危険な作業に協力してこなかった他の土地の避難民と言うものを中に入れることによって解決を図る。自分たちが命懸けで作った街を何もしてない人達が我が物顔で使うなんて、許せないでしょうからね。
しかも、少人数ならともかく近隣から集めた場合にはその避難民の数は今その街にいる避難民の倍以上になる。
数が少ないならいじめなどができるかもしれないけど、相手の数が多いとなると下手に手出しはできないはず。不満をためながらも耐えるしかないはずよ。
そしてもしその不満が爆発したとしても、向かう先は他の避難民。私には届くとは思えない。
なんて完璧な計画なのかしら?私の才能が恐ろしいわ!
「…………ただ、懸念点もあるのよね」
「と、おっしゃいますと?」
「区別とは言うけど、これっていわゆる階級をつける行為に近しいじゃない?そういうモノって、国王陛下の特権じゃないのかと言う不安はあるのよね」
「あっ、確かにそうですね」
貴族や平民と区別するのはもちろん、貴族を爵位によって区別するのは国の制度によるもの。
つまり、人の身分を決めるというのは本来国の役割であり国の特権のはずなのよ。
そこで私が平民に区別をつけるなんてことを言い出したら、国の権利を侵害したとかいう理由で処罰されかねない。
「しっかりした言い訳を準備しておかないとマズいわ。草案をまとめておいてくれるかしら?」
「かしこまりました。方針としては、あくまでも危険な事態にならないようにするための一時的な措置であり、階級を決めているものではないと言う説明でよろしいでしょうか?」
「そうね。国の権利は侵害していないという部分は強調しておいてもらえるかしら?」
「かしこまりました」
できれば、誰にも突っ込まれずに終わらせたいけど難しいでしょうね。公爵様とか代官とか、こっちを引き込むための道具として使ってきそう。
本来なら自分たちの領地にも影響がある(主に治安などの面で)ことなんだけど、派閥争いまで起きるとその辺は必要な代償とみなされるようになってしまう。嫌な話ね。
「嫌だから、利益の事でも考えましょうか。一応対価として避難民を送り付けてくる貴族からは物資とかの提供で支払わせるべきね」
「はい。しかし、それだけでは借りをすべて返しきったことにはならないかと。あくまでも必要なものを渡しただけ、ですので。自分たちで抱えるよりはよほど出費も少ないでしょう」
「そうよね。となると、他に何か要求する必要があるかしら?」
避難民を受けるのは、こちらの負担が大きい要素と言うことになる。
だからこそ送ってくる貴族には対価を要求することができるわけだけど、その対価が避難民のための物資だけだとした場合私の方が負担は大きいということで向こうへの貸しは残ったままになる。
つまり、まだ何か要求できるというわけね。
戦場で作った貸しの事も考えれば、私は結構な量の貸しを与えていることになる。
それを全部返してもらおうとすれば、結構なものが得られると思うわ。
「まだ残しておくべきか、ここで一度全部返してもらうか。それが問題ね」
「ですね。しかし、一部の貴族様はこちらが欲しいと言わずとも大量の物資を送ることで借りは返したということにするのでは?」
「なるほど。あり得るわね…………ちょっとその辺りの事を調べておいてもらえる?私に借りを返そうとする貴族と、各地の避難民の状況を」
「はい。避難民の方は大まかなことは分かっているため、詳細を調べておきます。また、貴族の皆様の動向の方もできる限りのことはしておきましょう。おそらく物資を大量に送るとなるとそれなりに人も資金も動くでしょうから見つけるのは難しくないかと」
さてさて。借りを返そうとする貴族がいる、しかもその貴族は物資を送ってくる可能性が高い。
なんてことを聞けば、私には悪い考えが浮かんでしまった。
どうせなら貸しは作ったままにしておきたいし、できるならやってみてもいいかも知れないと考えた私は領内の治安維持のための対策をすることにした。
丁度、避難民が増えた影響で盗賊なんかも増えたのよ。
ちょっと私の領地にはいらないから、いなくなってもらうことにするわ。できる限りは仕留めるつもりだけど、もし逃がしてしまったらその後は私の領地に戻ってこないようにするつもりよ。
ただ私は私の領地の事しかどうにもできないから、他の領地で逃げた盗賊たちがどうするかは私のあずかり知らないところ、としてもいいわよね?
なんて考えた数日後、
「お嬢様。報告が入ってきました。男爵家、及び子爵家の皆様のところからの避難民と物資はすべて受け取りが完了しましたが、どうやら伯爵家からの避難民と物資は盗賊に襲われてしまい到着が困難とのことです」
「あら。そうなの?必要であれば私たちの方からも討伐隊と救出部隊を出すと提案しておいてくれる?あと、もしこっちまで逃げてくる避難民がいれば受け入れられるようにしておいて」
「かしこまりました。すぐに対応いたします」
なんと驚いたことに、悲しい事件が起きてしまったみたい。
まさか私よりも爵位が上の伯爵様が送り出してきた避難民と物資が襲われるだなんて思ってもいなかったわ。
伯爵様でもどうにもならないなんて、心配でたまらないわねぇ…………フフフッ




