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新しい家族

 ディアブロ討伐、不思議な森でのできごと、僕たちはすべてのイベントを終えると、そのまま帰還した。


 帰りももちろん、ニアのポケットマネーで転移の間を使った。


 あっという間に地上に戻るが、転移の間で待っていたのはリルさんとカレンだった。


 どうやらニアが報告していてくれたらしく、出迎えてくれたようだ。


 リルさんはいつものように偉そうに、

「ご苦労だったな、少年」

 と、尻尾を三度振った。


 カレンはいつもようにほがらかな笑みで、

「お疲れ様でした、クロムさま」

 と言った。


 その一言だけで疲れが吹き飛んでしまう。

 ただ、そのまま癒やされるわけにはいかない。

 僕はカチュアの今後についてリルさんに尋ねた。

 彼女は神妙な面持ちで言う。


有罪(ギルティ)

 と――。


「そ、そんな、なんとかならないんですか?」


 僕は彼女をかばうが、これだけはどうしようもならない、とリルさんは言う。

 そんな僕にカチュアは肩を叩きながら言う。


「まあまあ、クロム君、気にしないで。あたしがダンジョンの掟を破ったのは事実なんだから、罪は甘んじて受けるよ」


「でも」


 という僕に、カチュアは言う。


「デモもストライキもないの。お姉さんは綺麗な身体になって、また戻ってくるから」


 カチュアはリルさんの前に歩みを進めると、両手を突き出す。

 お縄にしてください、という意味だろう。

 その姿を見て、リルさんは言った。


「これはなんだ?」


「なにって連行してください、という意味ですけど」


「連行? なにを言っている。そんなことをしたら罪を償えないだろう」


「冒険者協会で裁判を受けるんじゃないんですか? あたしは」


「そっちの方はなんとかもみ消した。エイブラムとお姫様に感謝せい」


 ニアの方を見る。

 彼女はただ健やかに微笑んでいるだけだった。

 エイブラムは捕捉する。


「元々、悪魔復活は欲に目がくらんだお主の兄弟子たちの仕業。幸い彼らすでに報いを受けているし、被害は最小限に収まった。これ以上、ことを荒立てる必要はない。もっとも、無罪放免ともいかないが」


「じゃあ、あたしはどんな罰を受ければいいんですか」


「決まっているだろう。お前の罪はこの神獣リルを奔走させて疲れさせた罪。それを償うのだ」


「と言いますと?」


 リルさんの代わりにカレンが笑顔で言う。


「リルさまは大変な食いしん坊でその食費はギルドの運営費をとても圧迫しています」


「…………」


 カチュアはそれでも意図を計りかねているようだった。

 仕方ないので僕が説明をする。


「フェンリル・ギルドはもっかのところ人手不足なんだ。まともな冒険者は僕しかいない。よってギルドの収入も限られる。ここでもうひとり、冒険者が増えたら、ギルドの運営も楽になる。そう彼女たちは言っているんだよ」


「つまり、あたしにフェンリル・ギルドに入れ? と」


「そういうことだね」


「あたしなんかが入ってもいいのかなあ」


 それでも逡巡するカチュアに僕はこう言った。


「カチュアじゃないと駄目なんだよ」


 その言葉を聞いたカチュアはくすくすと笑う。


「まーた、そんなジゴロみたいな台詞を言って。まったく、君は天然のハーレム体質だね。お姫様の苦労も忍ばれるわ」


 カチュアはニアの方を見ながらそう言ったが、最終的には了承してくれた。

 ただし、と条件を付けてくるところが彼女らしかった。


「今回の件でお姫様に借りを作っちゃったし、お姫様の許可が降りたらいいよ」


「ニアの許可がいるの?」


「いるの。ギルドに入るだけでなく、恋の狩猟免許も欲しいかな」


「どういう意味?」


「それは朴念仁の君は考えなくていいの。ともかく、あたしの言葉をそのまま伝えてきて」


 仕方ないのでそのままそれをニアに伝える。


 ニアは最初、反応に困ったような顔をしたが、それでも最終的に、


「もともと、わたくしが決めるような筋合いではありませんが、カチュアさんがそれで納得されるのでしたら――」


 と、OKをくれた。


 それをそのままカチュアに話すと、彼女は「うんうん、甘いお姫様だ。ライバルを招き入れるなんて」と漏らした。


 僕はそれでも意味を計りかねていると、呆れたリルさんがつぶやく。


「まったく、少年の鈍感さは国宝級だな」


 それは認めるけど、答えを教えて欲しかった。

 そう思っていると、答えはこれだよ、と、耳元でささやく女性がいた。

 カチュアである。

 彼女は僕の腕を引っ張ると、僕の頬に唇を寄せた。

 それも限りなく僕の口に近い位置に。

 いわゆるキスというやつだ。

 彼女の唇は相変わらずとても柔らかかった。


 しばしキスされた箇所を手で押さえ、呆然としていたが、それでやっとなんとなく意味が分かった。


 聖剣のエクスが茶化すように言う。


「年上の森の妖精ルート、

 麗しのお姫様ルート、

 食いしん坊の神獣様ルート、

 可憐なメイドさんルート、

 それに超絶美少女の聖剣ルート、

 さて、クロムはどの道を選ぶかな」


「…………」


 それは本人にも不明だが、ひとつだけ確定していることがある。


 明日からフェンリル・ギルドに頼りがいのある素敵な魔術師が加わるということだ。


 要はまた新しい家族が増えるのだ。

 それはきっと幸福なことなのだろう。

 そう思った。

これにて第二章完結です。ここまでお読みくださりありがとうございました。

第三章もがんばりますので、ブックマークなどを頂けると嬉しいです。

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