カレンの乙女日記 †
『カレンの乙女日記』
こうしてフェンリルの館接収騒動はクロムさまの大活躍によって幕を下ろしました
まる、とカレンは日記の最後に書き込む。
日記を書き終えると、カレンは自分の肩を軽く叩く。
今日は色々なことがあったので疲れているのと、胸にぶら下がった乳房が肩こりの原因であった。
「まったく、胸が大きいのは良いことだけじゃありません」
と嘆く。
しかしそれにしても、と胸に残っている感触を思い出す。
先ほど抱きしめた少年クロム。
彼は見事にウロボロス・ギルドの手先を倒し、この館を救った。
まさかあの新米冒険者の少年がこんな手柄を立てるだなんて夢にも思っていなかった。
もちろん、彼がいつか大成することは信じていた。
こう見えてもカレンは目利きには自信がある。
何百人もの冒険者を見てきたが、少年には才能があると一目見たときから分かっていた。
だからいつかとんでもない冒険者になるとは思っていたのだけど、まさかこんなにも速く頭角を表すなんて。
想像の範疇を超えていたが、それは嬉しい計算外であった。
きっとクロムはこの先も大きく成長し、カレンを楽しませてくれるだろう。
もしかしたら、数年後にはこの迷宮都市を代表する冒険者となっているかもしれない。
「その前に手を付けておこうかしら」
そんな考えが脳裏をかすめる。
幸いというか、少年とは同じ屋根の下で暮らしている。
隣の隣の個室で少年は寝ているが、今、透け透けのネグリジェをまとって少年の部屋をノックすれば既成事実を作れるかもしれない。
田舎の両親も早く孫の顔をみたいとうるさいし、カレンもなんだかんだで、結婚を意識する年頃であった。
カレンは立ち上がると、クローゼットを開け、下着を物色するが、結局、勝負下着は選ばず、普通の下着にした。
ネグリジェも普通のものにした。
「クロムさまを誘惑するのはまた今度」
そうつぶやくと、明かりを消してベッドに入る。
クロムのことは嫌いではない。
むしろ好意を抱いているが、それだけに軽率な行動は避けたかった。
神獣リルさまは何百年も生きているだけあってなかなか感情を表に出さないが、彼女もクロムに好意を抱いている節があるし、自分だけ抜け駆けするもずるいであろう。
それにカレンはとても眠かった。
今日は色々なことがあったし、疲れている。
それはクロムも同じだろう。
いや、クロムはもっと疲れているに違いない。
ならば静かに休ませてあげるのが、いい女の務めであった。
いい女を自負するカレンは、それを実行する。
さて、今日はどんな夢を見られるだろうか。
クロムさまの夢を見られるかな。
そんな乙女チックなことを考えながら、カレンは眠りについた。




