3話 ヤクザに咲いた白スーツ
蓮崎藍河は普通の高校生とは違う。
姉を溺愛するーー極度のシスコンである事は言うまでもないが、それ以前に普通の高校生とは違うのだ。
彼が小学3年生の夏休み。その日をきっかけに、彼の生き方が変わってしまった。
蓮崎家はーー代々続く忍者の家系。
クナイ等の忍者道具や、忍術などと言った特殊技術で言葉通り『忍び』を行う。
彼ーー藍河も当然忍びになる為生まれ、育てられた……筈だった。
蓮崎家は代々女が強かったくの一の家系。
藍河の努力は追い付かず、落ちこぼれていった。
親や親戚は皆匙を投げ、見捨てられていった。
そんな藍河が、小学3年生の夏休みに差し掛かるある日、転機が訪れたのだ。
大勢のヤクザに囲まれ、藍河は子供の体1人でそれを殴り倒してしまう。
例え忍びの落ちこぼれでも、身体能力では藍河に敵う者はそうはいなかった。
喧嘩早い藍河は、相手がヤクザであろうが問答無用で挑む。その日もそうだった。けれどーー
あの男との出会いが、転機を作り出したのだ。
倒れるヤクザの中心に立つ藍河に近づいた、白いスーツを綺麗に着こなす白人の外国人。見たところ、歳は40後半といった、どこかカッコいい大人の渋さを感じさせていた。
けれど藍河は鋭い眼差しで、近づいたその男に子供らしからぬ台詞を、英語で吐き捨てる。
「Who are you ?(何だ貴様は?)」
白人の外国人は、思わず驚いて言った。
その返事は聞き慣れた日本語だった。
「失礼。私は日本語で話せるよ坊や」
それを聴いて、すぐに無表情で言い直す。
「そうか。ならもう一度言う。何のようだオッサン」
オッサン呼ばわりされた外国人は、「おいおい」と大人の対応で言い返す。
「私は君の何倍も長く生きてる年上だぞ?そういう時は敬語で話すものだ。」
「……僕はこれが最高の敬語だったのだがな。ちゃんと『さん』付けしたろ?オッ『サン』ってな」
……ふ、ふはははははは
白人の外国人は大いに笑う。
そして笑顔で、カバンから小さなそれを取り出して、生意気な小学3年生に手渡した。
名前や番号等が書かれた名刺。
「坊やの事をしばらく気になって見させてもらった。その年でヤクザの集団を蹴散らし、私相手にそこまで無礼な口を聞いたのは君が初めてだよ。私は君が気に入った。是非私の元で働いてくれないか」
藍河はもう一度名刺に目を通す。名前の上に、この男が何者であるか書かれてあるのだ。
『合衆国CIA』
よく映画などで耳にする組織名。
嘘か誠か。けれど男の表情から、どこか信憑性の様なものが感じられるのだ。
藍河はニヤッと笑みを浮かべ……
変わらぬ生意気な口調で言い返す。
「坊やではない!蓮崎藍河だ。僕をスカウトか!面白い!面白いぞ!オッサン!」
(この男といれば、僕は強くなれる!そんな気がするのだ)
「ハッハッハ。私は厳しいぞ。まずは先輩への言葉遣いから叩き直してやる。きちんと相手を『さん』付けで呼べるように。それが出来るまで、お前はずっと坊や扱いだ」
すると藍河はーー生まれて初めて、人に対して自分から頭を下げた。
そして手始めに、覚えたての敬語を入り混ぜるのだ。
「よろしく頼む!オッサン『さん』!」
(必ず僕は強くなる!姉上を守るための、絶対的な力を!)
※
現代。
屋上にいた藍河とフィフスを、突然の狙撃が襲い掛かる。
撃ち抜かれたフィフスと自身を逃すため、藍河はアンカーを出入口階段付近へ射出。すぐにこの場から逃げないと、でないと狙撃第2射が来るのだ。
けれどーー藍河は気が付かなかった……もう1人の接近に。
「ーー残念だね。逃げられるとか、思っちゃった?」
刀を構えた、男の接近。
片手はアンカーを伸ばして、もう片方は負傷したフィフスを抱えている。両手が塞がっていた。
男は勝ちを確信していた。時だった。
バシュッ!
閃光。眩い光が藍河の体を包み込み、男の視界を奪い襲った。
「なっ!?フラッシュバン!?」
男の太刀は動きを止め、大きな隙を作り出す。
藍河の懐に忍ばせておいた、閃光弾が炸裂したのだ。
咄嗟にアンカーを収納し、右膝で男の顎を蹴り飛ばす。
男はガッ!と声を上げ、そのまま後方へと吹き飛んだ。
「私は負けない……!この力で、姉上を守り抜くと誓ったのだ!」




