表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/71

45 吾亦紅の観察 : 変化 後編

 本日は二話更新しています。

 まだお読みになっていない方は一つ前のお話からお読み下さい。


 翌日から晃は、ほんの少しの時間でも涼菜と同席したがる様になった。

 課題の時間も、急ぎの仕事の決裁も、ほとんどの時間を許す限り共にした。

 大学の課題を持ち込んだり、稀に急ぎの仕事の裁決も温室で処理するその姿は、今までの晃からは予想もつかないものだった。

 課題や仕事の合間に、興味のある物や好きな物について色々聞き出しては手元の手帳にメモをしていく。

 無理な会話をしないので、涼菜もストレス無く過ごせている様だ。

 最近は晃の為人を掴んできた様にも思う。


 それだけでも中々良い傾向だったが、同室で仕事を処理した事により、涼菜が晃を見つめて胸を押さえたり、深呼吸をしたりする様になったのは予想外の収穫だった。

 晃はまだ気づいていないが、後藤も瀧本もすぐに気付いた。

 それが恋であれば良い、と名月は強く願う。

 少女の恋は盲目だ。

 晃を恋い慕い、『花生み』として隣にあれ、と。


 また晃見惚れて、それに気付いて、慌てて此方を見回した涼菜が、安堵の息を吐く。

 東条家に仕える者として、居ない者の様に振る舞う事も、見て見ぬふりをする事も当然の嗜みである。

 そのまましっかりと晃を見ていてもらいたい、そう願った時、名月は小さな胸の痛みを感じた。

 もしや持病が再発したか?と胸の辺りを撫で、少しだけ楽な姿勢に変えた。


 宿題が終わった涼菜は本を読んだり、刺繍やお茶の淹れ方等を習う様になり、上手く淹れられた時は、晃をはじめとして、使用人である名月達にさえ振る舞う事もあった。

 初めてお茶を出された時の晃は激しく動揺して、カップを持つ手が震えていた。

 それを思い出して名月はクツリと笑った。

 どうやら今日は読書の様で、晃が残念そうに肩を落としたのを見てまた少し笑う。


 課題や仕事に区切りがつくと、食事時間になる。

 『花生み』として、栄養を摂る為に大量に食べなくてはならない涼菜を、晃はにこにこと見つめ続けている。

 どうやら年頃の女性にその行為はNGである事を理解できないらしい。


「一生懸命に口に運ぶ姿も、好みの味に当たって微笑む姿も可愛いじゃないか。そんなに見られたら困る事か?」


 名月は苦言を呈してみたが、効果はない様であった。

 遠回しに涼菜が嫌がっていると伝えてみても、「見るなと言われていない」と言い張り、辞める気はない様だ。


 とある夜、比較的早く就寝準備が終わった。

 名月が明日の用意を終わらせ、部屋に戻ると晃の姿がない。

 嫌な予感がして、『温室』に急ぎ向かうと、「男女が親密になる為には、一緒に寝るのが一番だと聞いたんだ。だから今夜は一緒に寝よう!」と言いながら部屋に押し入る所だった。

 名月は全力で晃を引き摺り出し、部屋に押し込むと小一時間説教を行った。

 結局何がしたいのか?と聞くと、晃はキョトンとした表情を浮かべ、次いで蕩ける様な笑顔になって言った。


「大切に慈しみたいんだ。甘やかして、甘やかして、オレにも家族に見せる様な翳りのないあの笑顔を見せて欲しい」


ーーーそれは恋なのか、『花食み』の本能なのか?


 名月は言いかけた言葉を飲み込んだ。

 下手な事を言うと、晃は調子を崩しそうである。

 このまま、落ち着いたまま過ごしてほしい。


 また胸に鈍い痛みが走り、名月は次の休みには病院に行こうと決意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ