38 クロッカス:切望
名月浩二は苦悩していた。
決定的に溝の出来てしまった二人を何とかしたい。
お互いに相手が居なくては健康を損なうにも関わらず、決定的にすれ違ってしまっている。
浩二は鈍く痛むこめかみを揉みながらため息を吐く。
(晃の繰り出す悪手の数々を、なかった事にしたい)
食欲に負けて、涼菜に恐怖を与え続けた事。
恐怖が治まる前に、謝罪と称して何度も押し掛けて、ストレスを与え続けた事。
更に、浩二の預かり知らぬところで、晃に異常な執着を見せるあやのに、事もあろうか涼菜の事を相談してしまった。
とどめに、家族と引き離されて、傷付いているのに、家族には会わせないと強固に反対した事。
状況を打破する為に、日野家に謝罪に行って、晃に内密で手紙のやり取りを行っているが、上昇するのは己への好感度のみで、晃の評価は限り無く低い。
頑張って二人を取り持とうと画策するも、うまく行かない。
家族のことがあってから、涼菜は晃に対して頑なに心を閉ざしている。
自分と瀧本、後藤には笑顔を見せはじめたけれど、晃には部屋の扉すら開けたがらない。
「ここは晃の家なのだから、勝手に入ってくる事は、私には止められないし、我慢するしかない。けれど自分から招き入れる事は絶対にしない」
そう、言い切った涼菜の瞳は恐ろしい程に凪いでいた。
取り付く島もないとはこの事だ。
花束も逆効果の様なので、一時的にやめさせた。
最初は効果が見られたものの、あの事件の後から涼菜は強い拒否感を示すようになった。
本人からも「無駄なのでやめてほしい」と伝えられ、その言葉と共に、浩二も自分の意見を交えて晃を止めた。
しかし、その場では素直に話を聞いたふりをして、陰で別の部下に二日おきに贈らせるなどという馬鹿な行動をとっていた。
その話を聞いた時には、あまりの悪手ぶりに耐えられず、頭痛薬を飲んだ。
部下達には、花体質のことを伏せた状況説明してとにかく余計なことはしない、させない様に指示してやめさせた。
温室で、お茶を共にさせても涼菜は目も合わせない。
晃が退室すると、明らかにホッとした様子で肩の力を抜く。
瀧本が「悪い子じゃないの、お腹が空いて気が立ってただけなのよ。貴女にとっては「だけ」で許せる事では無いと思うけれど」と、取り成しても悲しい顔をするだけだった。
「本当は不器用な優しさがある事はなんとなくわかってる。花束やメッセージに嘘がない事も。でも、やっぱり色々許せない」
静かに首を振った涼菜に、時間と共に怒りが落ち着くのを待つしかないと諦める他なかった。
「でも、子供みたいでそんな自分が一番嫌だ」
ポツリと呟いた涼菜の声は、浩二には聞こえなかった。
2022/11/22 遡ってちょこっとずつ修正を行いました。
話の流れは大きく変わっていませんが、なんとなく二人の気の持ち様が変わっているはずです。




