15 ブバルディア:交流 後編
迫力美人の名前は 熊谷あやのさん。
東条晃の二つ上で、二十二歳。
背が高く、骨太の色素の薄い女性だ。
品のあるヒラヒラしたドレスワンピースを着こなしていて、美しい。
私、多分何時間でも見ていられる。
彼女は日光浴をする事で髪に菜の花の様な小さな『花』を咲かせる事ができるそうだ。
もう一人は小悪魔の様に可愛い少女 芦屋 小毬さん。
私の一つ上で十七歳。
黒い爪に、濃いめのメイク。
黄色とピンクのメッシュの入ったツインテールで、SNSとかでよく見るスタイルなのだけど、とにかく可愛い。
お気に入りのSNSでいいねが一定以上付くとこめかみにハイビスカスの様な見た目の大きめの花が咲くのだそう。
『花生み』はみんなストレスで咲くと思っていたので大変驚いた。
「涼菜ちゃん、と呼んでいいかしら?貴女は強いストレスで首筋に『花』が咲くのよね?」
「はい、小さい頃からそうなんです」
あやのさん(苗字は可愛く無いから名前で呼んでほしいと言われた)の質問に答えると、彼女は小さく頷いてカップを傾けた。
紅茶を飲むだけなのにとても優雅で美しい。
「こまりは『花生み』は幸福を感じると『花』を生むって聞いたけど、やっぱ一人一人全然違うねー」
にぱーっと擬音がつきそうな笑顔でクッキーを食べる小毬さん(こちらも名前の方が気に入っているからと言われた)。
小動物的で、抱き締めて、守りたくなる可愛さだ。
「では、『花』を生む苦痛もひとしおでしょうね」
あやのさんのぎゅっと寄せられた眉に心がぽかぽかする。
「ありがとうございます。確かに辛く無いとは言えないくらい痛いですけど、咲いてしまえば、丁寧に取ってくれますから」
「わかるー!アタシもここに来た時感動した!ぜんっぜん痛くないの!」
そう、『花』を生むのは苦痛だけど、医療班の方々は丁寧に優しく扱ってくれるので痛くないのだ。
小毬さんが腕をぱたぱた振り回して話す姿がとても愛らしい。
年上なのに、少し、妹を思い出してしまう。
「わたくしは髪の毛の先に咲くので苦痛はありませんけれど、お二人は大変ですわね」
よしよし、頑張りましたね、と頭を撫でられる。
嬉しいけど恥ずかしくて、頬が熱くなる。
基本的に『花生み』女子会とはお菓子を食べながら、お話しするだけの集まりらしい。
今回は顔合わせとの事で、自己紹介だけで済ませるとのことだった。
「わたくしは晃のお嫁さんになる為の花嫁修行を行っておりますわ」
「アタシはオシャレの研究だね。メイクとか、流行りのブランドとか!ネット検索しまくり!本当は店に行って生で見てみたいんだけどねー」
普段何しているのか訊くと、あっさり教えてくれる。
小毬さんはなんとなくそんな気がしていたけど、あやのさんの発した“東条晃のお嫁さん”のパワーワード感が凄すぎる。
あんな怖い人のお嫁さんになりたいの?
「晃は表情が乏しいですけれど『花』を見たら笑顔になりますでしょう?あのギャップがたまらないんですのよ?」
表情が、乏しい?
確かに無表情が多いけど、めちゃくちゃ怒るし、笑うし、怖いよ?
思い出したら、指先が震えてきた。
「あと、気遣いが下手なのに精一杯努力している不器用な優しさも魅力の一つですわ」
やさしさ……?
あやのさんにはやさしいの?
「あ、それはわかるかも。方向が違うけど、何がしたかったのかはわかるから嫌だって言い辛いやつね」
こまりさんにも、やさしくて。
わたしには、いたいこと、ばかり。
ーーーメキッ
もう、お馴染みになった痛みが背筋を走る。
「涼菜様!」
瀧本が走ってくる。
あの、狂った様な『花』以外何も映していない瞳がフラッシュバックする。
首を絞められ、息が出来なかった苦しさが蘇る。
首に巻いたストールを瀧本が取り外すと、抑えが無くなったとばかりに一気に成長する。
「「?!」」
二人の驚く声が聞こえてくるけれど、それは何に対してなのかわからない。
『花』の咲くスピードなのか。
ーーー幾分薄くなった指の跡なのか。
車椅子がすぐに用意され、医療班の人達が駆け寄ってくる。
そこからはいつも通りだ。
運び出されて、切り取られる。
折角、二人が誘ってくれたのに、こんなお別れの仕方、嫌だなぁ……
「ごめん、な、さい」
涙と共に誰に言ったのか分からない謝罪が零れ落ちた。




