表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/100

お兄ちゃんはふりかえる

萌田兄の心の内、回です。

 もえは生れた時は未熟児で大変だった。


 まだ生まれる前から、新しく増える妹のことが楽しみでしょうがなかった。


 母は綺麗なレースや光沢のある絹、肌触りの良いコットンで、妹の為の準備をしていた。


 女の子らしい可愛らしい部屋が徐々に出来上がり、幼いながらも僕は兄としての自覚を少しずつ芽生えさせていった。


 妹が生れたら、たくさん遊んであげようと。


 しかし、実際に生まれてみたら、遊ぶどころの話ではなかった。


 病弱な妹は病院と自宅を行ったり来たり。


 もしかして死んでしまうのではないかと、恐れた日々。


 僕は、妹が暑くないよう寒くないよう、転ばないよう怪我しないよう、そればかりを注意していた。

 



 小学校にあがるころ、やっと妹は人並みに丈夫になっていった。


 しかし、幼いころの認識が抜けないのか、僕は心身ともに妹が傷つかないよう、それに細心の注意を払った。


 遠くに出かけるのは危ない、高い所も危ない、走ったりして転んだらどうする。


 山は虫がいる。海は日差しがきつい。プールは溺れたら。


 男の子は乱暴だ。女の子に心無いことを言われたら。


 どこかに出かける時は、兄である自分と一緒にしなさい。


 誰かになにか言われたりされたら、必ず報告しなさい。


 ことあるごとに、僕はもえにそう言い、約束させた。


 もえも素直に頷いた。


 素直で、可愛い本当にいい子に育った。



 

 そんなもえが、優しくていい人、の男の子がいると言い出した。

 

 僕は、もえから詳しい話を聞き出すと、すぐに人を使って調べた。


 辰巳雅紀。


 別になんてことのない男だった。


 成績も、家も、特技も、容貌も、特になんてことのない、普通の男。


 いや、どちらかと言うと覇気のなさそうな、きっと駄目な男。

 

 もえは容貌も誰よりも可愛らしく、それなりの資産がある家の令嬢なのだ。


 きっと、騙されてるに違いない。


 もえがあまりに優しく素直すぎるので、きっとそこを付け狙う下郎が現れるとは思っていたが、こんなに早く現れるとは思っていなかった。


 もえを守れるのは、兄である僕しかいない。


 そう思って、止めるもえを無視して、僕は奴に釘をさしにきた。


 


 なのに。




「大っ嫌い」



 

 もえから初めて発せられた、その言葉。




『妹君にとって、あなたのその言動は迷惑以外のなにものでもないのでは? 本格的に疎んじられる前に、一度ご自身をよく振りかえられてみてはいかがですか』


 以前、後輩からそう投げかけられた言葉。


 その時はあり得ない、と軽く流したが。


 本当に、僕は妹に疎んじられてしまったのだろうか。




 わからない。






 僕は、なにを間違った?

間違いだらけです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ