裏事情
ゆっきーのでしゃばりが止まりません。ので今回はゆっきー回です。
そこは確かに、お茶もできるし人目もない格好の場所だった。
が。
「どこだここ」
てっきりどっかの店に入るのかと思ってたら、連れ込まれたのは学校近くの高級マンションの一室だった。
「ん? 僕のマンション」
あっさりと幸広は答えた。
おまえは自分ちをいいところと言うのか。
ん? だけど……。
「おまえ、自宅はもっと遠くって話じゃなかったか?」
「うん。自宅はねー。ただ学校の近くにも部屋があると便利でしょー?」
「その為だけに、部屋借りたのか?」
「違うよー。だから言ったじゃない。僕のマンションってー。このマンションごと、僕名義のだよー。高校の入学祝いにもらったんだー。まあそんなに部屋は使わないから、この部屋以外は賃貸で貸し出してるけど」
普通そんなものは高校の入学の祝いごときでもらえるか。
「んんー? なんかたつみん、うちの学校のことわかってないー? だって、うちの学校あの御加賀見グループが新設したんだよ?」
くるりと幸広がかわいらしく首を傾げてそう言った。
まったくかわいくはないがな。
「新設校ってだけじゃなく、けっこー学費高いんだよー?」
「は? 確かに区域内生徒は入学金免除に学費も半額とは聞いてるが、別にそれほどじゃあねーぞ」
確かに御加賀見はそう言ったし、振込の金額も一般の私立校とそう差はないはずだ。しかも、俺の場合はそれがさらに半額になってるのだから、なおのことだ。
「んー。まあ授業料はねー。でもあのとっても範囲が狭い区域内免除の中に、施設設備費って項目あるの、知ってるー?」
「施設設備費?」
「言い換えれば、寄付金、かなー? えーと、上限はないんだけど、最低はこれだけー」
幸広は手のひらをぱーの形の開いてみせた。
「5千円?」
「もーやだなー。今の話の流れでそれはないでしょー」
「……5万?」
「まさかー」
「ってことは、50万……?」
「うんー。それも1年分だから、1年で最低50万。高校3年間だと150万だね。払ってる人はもっと払ってるはずだよー。こーゆーのはステイタスを示す意味合いもあるからねえ」
「150万? 高校で? 授業料や教材や入学金は別で?」
「そだよー。ちなみに僕のうちはその最低の10倍かなー、払ったの。まー他にもけっこういると思うけど、その金額くらいなら。でも、やっぱり知らなかったかー。お姫様あえてその辺隠してそーだもんねえ。もともとはたつみんと通う為につくったんだろうけど、それだけじゃ経営はまわっていかないもんねえ。まあとにかく、そーゆーわけで学校、家がほんとにご近所さん以外はけっこういいとこのお坊ちゃまお嬢様が多いんだー。後は免除が効くほどの、勉強なりスポーツなり特技なりが優秀な特待生だね。こっちは学校の知名度づくりのタネかなー? 優秀な人材と、上流階級の家の子女。あそこに通うのも、将来の為の人脈づくりの一環って、お姫様もそれ狙ってるはずだよー。実質あの学校の実権はお姫様だっていうしねー。あははは」
……なんか世界が違い過ぎて、頭痛えんだけど……。
「ああたつみん、かわいそー。やんわり目隠しされてたんだねー。だから、あのお姫様にはあんまり気を許しちゃ駄目だよー? あのお姫様の恐ろしさは、本当のところはきっとこんなもんじゃないよー。うっかりすると飼い殺しにされちゃいそうだし。でも心配しないでいいからねー。僕がそばにいて、守ってあげるから大丈夫」
「それはいらん」
「たつみん、ばっさりだー。でも、そこがたつみんの魅力だねー」
幸広は、にっこりと笑いながら嬉しそうにして俺を見る。
……こいつもなんか、気持ち悪い。
たんなる馬鹿だと思ってたのに、こいつからもなんだか得体の知れない恐ろしさを感じる。
御加賀見といい、金持ちはみなこんな変人ばかりか。
「あの……」
それまで黙ってた、学校前でいきなり泣き出した男、今日のこの元凶になってるそいつが、居心地悪そうに目に涙を浮かべながら小さく手をあげた。
「俺のこと…………忘れてない……すか?」
…………やべえ、存在すら忘れてた。
ゆっきーのおかげでまだ終わりません。
松江君、かわいそうに。
では次回もお楽しみに。




