その後のお話:後編
2話同時に更新しております。
前編を先にご確認くださいませ!
ライルに抱きかかえられたシェリーンは、彼から離れようと両腕で押しやるがびくともしない。ならばと足をばたつかせるが、ライルの腕はそれも抱え込んで離さない。足の力をたった一本の腕で抑え込むとは、普段から鍛えているシェリーンにとっては想像だにしないことだ。
「離してよっ、このバカライル!」
「わー照れちゃって」
ライルが猫をあやすかのような笑顔を浮かべると、ソハラとターヒルが口々に訝しげな声をあげた。
「ねぇ、それ仲いいって言う……?」
「やはり兄としてはどうにも不仲の不安が拭えないね」
「はっはーん、お前ら俺のこと煽ってんだな? そうだな? だからさっきも俺の登場をシェリーンに隠してたんだろ」
不敵に笑うライルに、シェリーンの動きが止まる。王室を守る近衛たる者、危険予知は得意中の得意だ。そっと身体を丸めながら、どうにかライルの腕の中から転がり出ようと試みる。
が、もちろんそれをライルが許すはずもない。
「どこに行こうっていうのかな、このガキんちょは」
「は? 子どもじゃないから。そうやってすぐ挑発に乗るほうがガキなんですけど」
「なんだよ、ガキみたいに『シェリーンちゃんだいすき』とでも言えばいいか?」
「うわぁ……」
「うわぁ……」
ターヒルとソハラは、目の前で繰り広げられる子どもの喧嘩に唖然としながら成り行きを見守る。
「ばっ、ばっかじゃないの。そんなんで喜ぶわけないでしょっ!」
「えぇ……」
「えぇ……」
ぱっと顔を赤らめたシェリーンに、ターヒルとソハラは再び言葉を失う。かわいそうな子を見るような目で見つめるソハラの横で、ターヒルが深いため息をついた。
「いや、僕たちが悪かったね。揶揄い過ぎたようだ。君たちは、その……君たちなりのやり方で仲良くしていることはよくわかったよ」
「10年前から何も変わってないけどね」
ポツリと呟くソハラの肩をぎゅっと強く抱いて、ターヒルはソハラを黙らせる。
「で、なんでライルがここにいるのよ?」
シェリーンが横抱きの体勢から少し上半身を起こしながら、じろりとライルを睨みつけた。ライルはそれを支えながらシェリーンを抱え直す。
「ターヒルがここにいるっつぅから」
「今日は式当日の警備について最後の確認をしようと思ってね、僕が呼んでいたんだ。ソハラが来るって先にわかっていたら昨日にしたのだが」
「うへぇ……ゴチソウサマ」
シェリーンが口角を思い切り引き下げると、ソハラを顎を上げて意味深な笑みを浮かべた。
「そんな顔しないでよ。半年後にはアタシ、シェリーンのお姉ちゃんよ」
「は?」
「『お姉様』とお呼びなさい?」
「うっわ、出た!」
体をのけぞらせる代わりに、シェリーンはライルの首にぎゅっと掴まった。頭の上から「ぐぇ」と聞こえたが気にしない。
「シェリーンさん、先に練習してみましょう? はい、りぴーとあふたみー、『おねえさま』」
「いや言わないから」
「わんさげん、『おねえさま』」
ぐぬぬと唇を噛むシェリーンを尻目に、頭上から元気のいい声が響き渡る。
「おねえさま!」
「アンタは言わなくていいの」
シェリーンがライルの首を絞め、ソハラが満足気に笑ったところでターヒルが立ち上がった。見上げたソハラの頭を優しく撫でる。
「さぁ、本来やるべきことを終わらせてしまおうか。ライルも、もういいかい?」
「……ん?」
「ん、ではないよ。離れがたいのはわかったから、先に面倒なことを終わらせてしまおう」
「えー」
「僕も! 僕も我慢してるから! 行こう、ライル!」
ターヒルがライルの腕を掴み上げ、シェリーンの足が解放された。
ライルは大きなため息をついてからシェリーンの額に口付けを落とす。
「しゃーねーな。よし、秒で終わらせよう」
「そこまで簡単な話でもないけれどね」
シェリーンを生まれたての子猫のような繊細さでソファーへ座らせると、ライルはターヒルと共に部屋を出て行った。
後ろ姿を見つめていたソハラが目を丸くしたままシェリーンを仰ぎ見る。
「ライルってああいう奴だったっけ?」
「昔っからああだったでしょ、超バカ」
「そうじゃなくてさ……。まあいいわ。こっちも治癒の続きやろっか」
ソハラがシェリーンの横へ移動し、先ほどと同じようにドレスの紐を解いていく。邪魔だとばかりに脱がせて、あらわになった肩の痣へ手をかざした。もう片方の手でコルセットの紐もほどく。
「このまま裸になってもらうからね!」
「なんで!」
「そりゃそうでしょ、明後日が結婚式だって何度――」
「見えるとこだけでいいじゃん」
「全身見られるでしょ、ライルに」
シェリーンが黙る。コルセットがはらりと落ち、ソハラは下着にもまた手をかけた。
「そっそっそれはっ、そうだけどっ」
混乱するシェリーンの耳に、扉の開閉音が聞こえた気がした。
「悪ぃ、大事なこと言い忘れ……あれ?」
長い足であっという間に近寄って来たライルが、半裸のシェリーンに固まる。シェリーンも固まる。ソハラはそっと下着を引き上げた。
「ノノノノノノノック! 普通ノックするの! ばか! あほ!」
ライルへ殴りかかったシェリーンの下着がずれないよう、ソハラが必死に押さえる。ライルはシェリーンに胸や腹を殴られながら顔をそむけ、「悪かった」と謝り続けた。
「あの、悪い、ちゃんと安心させなきゃと思って……」
「いいから早く出てって!」
顔を真っ赤にして涙目で怒るシェリーンの腕を掴み、ライルが耳元へ顔を寄せる。
「愛してる」
「……ば、ばかーっ! 今言わなくていい! ばか!」
「その顔やめろ、我慢できなくなる」
叫ぶシェリーンに押しのけられて、ライルは笑いながら部屋を出て行く。
「てかアタシたちよりイチャイチャしてない……?」
ソハラの大きなため息が部屋にこぼれた。
これにて完結です。お読みいただきありがとうございました。
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また完結確約にて作品公開できるよう頑張ります。ではまた。




